キサラギ
2007/日本/ショウゲート
出演:小栗旬 ユースケ・サンタマリア 小出恵介 塚地武雅 香川照之
監督:佐藤祐市
脚本:古沢良太
撮影:川村明弘
音楽:佐藤直紀
偏差値:61.8 レビューを書く
ファン心理を熟知している作品 [96点] [参考:1]
※ネタバレを含むレビューです。
マイナーアイドル・如月ミキの一周忌にファンサイトを通じて知り合った5人のHNの男たち(家元、オダ・ユージ、スネーク、安男、いちご娘)。
一年前に自宅で油を撒いて焼身自殺した彼女を悼むはずが、オダ・ユージが如月ミキが死んだのは自殺ではなく「殺されたんだ!」と言い出した。
「犯人は誰?」と皆で推理しはじめて、どんどん展開が変化していくミステリー&コメディ。
この映画は貸しビルの一室のみが舞台で、出演者もほぼ5人とアイドルのミキちゃんだけ。
まあ、この映画はなんてお金がかかってないんでしょう!
でも、面白さは、某大作映画たち?よりもピカイチでした。
舞台劇の映画の魅力って、やっぱり脚本と編集の勝利だと思う。
そして、魅力あるそれぞれの登場人物たち。
5人とも誰が突出してなく、皆、それぞれの役を魅力的に演じていた。
ワンシーン、ワンシーン、見ていて全くあきさせない。
あと、私的なことだけど、この映画を見ていると大昔のアイドルスターを真剣に追っかけしていた、若い頃の自分の気持が昨日のことのように思い出された。
私も、家元君のようにアイドルの切り抜きを必死に集めてファイルしたり、コンサートやイベントはもちろん、ファン・ツアーまでいったっけ。
毎回毎回、ファンレターをあきもせずに何年もしつこく送ったし、コンサートやライブの録音したテープを何十本も本人の自宅やら、事務所に送った。
そのかいあってか、本人に名前と顔を覚えてもらったのらん。
まだまだあったな。
今だからいうと、実家の周辺を意味もなく、ウロウロ歩いたり、玄関前にプレゼントおいてきたり、一時、彼が住んでいたマンションが「○○駅周辺にあるらしい?」と噂を聞いて、なぜか大阪から来たファンの仲間と探して、とうとう見つけちゃったりと、一種ストーカーまがいのことまでしてたなぁ。
今思うと、本当に今じゃ考えられない、不思議なおかしな程、彼に夢中になっていたっけ。
でも、一度でもアイドルを本気に好きになって、追っかけになった人ならば、この5人の気持が痛いほどよくわかるだろう。
ファンって一言でいうと「アホ」だもん。
そして、勝手な想像と思い込みで自分が一番そのアイドルとつながっている、いや、「つながっていたい!」と錯覚して喜んじゃうんだ。
特に、人気がないアイドルなら、なおさらすご~くいとおしくて身近に感じる。
そしてそのアイドルと自分の出来事を自分の描いた妄想にして一人ニマニマと喜んでしまう。
まあ愚かというかバカというか、でも、と~ても幸せだったあの頃。
はたからみると、「どーでもいいような事」が、ファンにしてみると大きな重大な事件になる。
本当にこの映画のおかげで、○○十年前の思い出がいっきにオーバーラップしちゃった。
「キサラギ」は見事にファン心理をよくわかっている映画だと思う。
2010/02/02 00:33
ちりつも
『羅生門』以来ですな [96点] [参考:1]
※ネタバレを含むレビューです。
僕の好きな佐藤祐市監督。代表作といえばこれかな。これはもう見事の一語ですよ。
舞台となる場所はアパートの一室。登場人物はたったの5人。ただ一室だけでここまでドラマは膨らませるものなのか、ただこれだけの登場人物でここまで人の心を動かせるものなのかと驚きます。これはコメディ映画ですが、だんだんとミステリー映画の様相になり、最後には感動のヒューマンドラマが待っています。人は見掛けによらず、話が進むにつれて登場人物の立場が二転三転と変わっていきます。二転三転どころか、まだあるのか、まだあるのかと次から次にやってくる意外な展開にハッとさせられます。
アイドルの自殺、これは本当は自殺じゃなかったんじゃないのかという疑惑から想像もしない結末へ。人の不幸をこうもハートフルに描いてしまうとはさすが佐藤監督です。
この映画、軽い乗りの映画と思いきや、実は奥が深く、人間の真の姿が描かれていると思います。人には見栄というものがあります。彼ら5人にも見栄があり、自分を良く見せようとしてるんですよね。僕が一番共感したのは小栗旬ですが、自分が一番じゃないとわかると嫉妬して、ついにスねてしまうところが笑えます。他のみんなも謙遜しつつも羨ましがられるのが内心嬉しかったり。見栄を張った後は、「僕なんかよりも君の方が凄いよ」と今度は他人を立てようとします。僕もついつい自分の自慢話ばかりしてしまうので、彼らの気持ちはよくわかります。
この映画を見た時、僕はまっさきに『羅生門』を思い出したんですね。つまり、みんな自分の都合のいいように誇張して話してしまうんです。まあこれも見栄なんですけど。だからどこまでが真実なのかは誰にもわからない。自分の事を知っているのは自分だけ。でも、それでも一番みんなにとって幸せな思い込みで納得しようとすることで、この映画はとてもハートフルで感動のドラマになっていると思うのですが、エンドクレジットの後で、プラスアルファの後日談が・・・。ここでこの素晴らしい結末を全否定されてしまいます。なんだか後味が悪いようですが、この結末否定は僕は必要な要素だと思うんですね。ここがあるからメリハリがきいているというか。だってすべては憶測でしかないんですから。あくまでエンドクレジットの後のおまけというところが心憎い演出じゃないですか。
僕の不満点は、アイドルの顔を最後にはっきりと見せたことですね。それまでずっと顔を隠していたので、いっそ最後まで隠していた方が良かったと思うんですよ。その方が想像も膨らむのになあ。佐藤監督はちょっと演出が飾りすぎる嫌いがある。回想シーンだってわざわざ映像で説明しなくても言葉だけで表現できたものもあったろうに。もったいないなあ。
2009/12/27 07:13
シネマガ管理人
演技と脚本がよい [90点]
ツカヂが意外に良かったです。役者の中にいて、違和感が全くない良い演技をしてました。
ユースケも良かったし、役者に恵まれたドラマでした。
脚本もすばらしい!
私はその年にみた映画の中では一番♪
2009/12/21 18:58
nekomaneki
考えれば考える程、ブレブレなミステリー [75点] [参考:2]
※ネタバレを含むレビューです。
キサラギ
パッケージにドランクドラゴンの塚地さんが写っているのに気付いて、速攻で借りて観ました(笑)
それにしても、キャストどれも個性強いですねー。そして、すんごい勢いで立場が入れ替わっていくというのもまたw
三谷幸喜さんみたいに二転三転四転五転とドミノの如く展開していく勢いのある脚本で、こういうの観ているとやっぱり邦画はこういう見せ方が一番面白いなーっと思っちゃいますねー。
でも、ちょっと残念だなーっと思うのが塚地の行動と登場パターンからして、きっとポアロ的もしくは若松くん的な役割を果たすのかなーっと思えば、貴方もドミノピースでしたか……!(笑)
さてさて、ちょっとここからはネタバレというか個人的な見解とか色々書いてみたり。
この作品はなんていうのか、一見綺麗にまとまったように見せて、ラストのラストで『彼らの推論を裏切る』という気持ちの悪い作りとなってます。
なぜこうなったのか? といえば、それはこの作品が彼らの発言と推論のみで展開して導き出した答えだからなんですよねー。
一人のアイドルの死。それに対して沸き上がる疑問と謎。それに対して登場人物一人一人が関与しているというように"見えているだけ"なんですよね。
こじつけです。限られた要素を最大限に使い切っているだけのこじつけで『事実・真相』ではないんですよね。
そして、現実が動画なのに対して、回想や証言などの過去パートがアニメのように動いているのも、現実=目の前でリアルタイムに起こっている自分(この場合は観ている側)の主観。
過去に関しては登場人物の話を聞いて脳内で再現した"証言を元にしただけの事実"と区別しているから出た結果なんでしょうねー。
そう考えると、色々な事が怪しくなります。
家元さんは本当に刑事だったのか?
塚地さんは本当に幼なじみだったのか?
いちご娘さんは本当にお父さんだったのか?
織田祐二さんは本当にマネージャーだったのか?
逆に言えば、全員が全員嘘をついている可能性だってあるわけです。そう考えると、些細な出来事、塚地さんのスーツを買いに行った件だって怪しくなります。
死亡したアイドルが警察にストーカー被害の届けを出していなかったという事実。
遺言の違和感を敬語を使っていなかったからだと証言するマネージャー。でも、本当に彼女が常に彼に対して敬語を使っていたという事実はありません。
そして、もしも犯人が共謀していたらいちご娘さんの留置所に拘留されていた事実(事実確認は家元さん、しかも外に出ている)も怪しくなります。
ラスト手前まですごく綺麗だったのに、考え方を一つ変えるだけで、すんごいブレブレです。
これは久しぶりですよ、プレステージも観てて「あ~」と思いましたけど、あれはファンタスティックです。
でも、これは現実的なレベルで怖い! 怖いのですよ!
なんていうか、目の鱗が落ちるというのか、見方を変えると本当コレ程怖いものはないわけで。
当初は『オリエント急行列車殺人事件』みたいなオチかな~っと思ってて、だから塚地がポアロだと思ったんですよ。
でも、実は本当にポアロのいない『オリエント急行』だったのかもしれませんね……地味にこれ密室事件と同じですし。
あー、やっぱり、アイドルさんは殺害されたのかなぁ。
最後は気持ちが悪く。でも気持ちのいい映画でした。いや、本当。
2009/05/12 03:35
ころね
とにかく笑える推理劇 [95点] [参考:1]
2007年に劇場で一番笑った作品であり、とっくにレビューを書いていると思っていたらまだだったことに気づいて少々焦った。
タイトルの「キサラギ」とは登場する5人のネット仲間の男たちが愛する、遅れて来たアイドル「如月ミキ」のことである。
1年前に自殺した彼女の1周忌にオフ会で集まった5人のオタクたち。
お互いに顔を合わすのは初めてであり、もちろん本名も知らない彼らであるが、彼女を偲びつつレアグッズを自慢しあう姿が実にオタクらしい。
そうして和気あいあいとしていた彼らのうちの1人が突然「彼女は殺されたんだ。」と言ったことから、一転その死の真相を探る推理劇に発展していく。
そう推理劇に発展していくのだか、そのシリアスな展開がいつの間にか意外な展開になり笑いにつながっていくため、そのギャップに笑いも倍増する。
映画の舞台はオフ会兼1周忌を行っている室内だけであり、「12人の怒れる男たち」ならぬ「5人の笑えるオタクたち」と言ったところである。
彼女の死の真相は…そして5人の男たちの正体は…上質のミステリー兼コメディの結末はぜひ本作を観て明らかにしていただきたい。
しかしこれだけの話題作なのに、あのTSUTAYAではなぜかレンタルDVDの在庫枚数が異常に少なく常に貸出中となっている。(1店舗に1枚しかない店もあり、店員に聞くとちょっと事情があってモニョモニョ…と言われたことがある。)
ゲオには結構な枚数が置いてあったのに、う~んこれもミステリーだ(笑)
2009/03/24 22:34 (2009/11/07 06:17修正)
kira
トラックバックはこちらのアドレスから受付しています。トラックバックについて