Invictus
2009/アメリカ/ワーナー・ブラザース映画
出演:モーガン・フリーマン マット・デイモン スコット・イーストウッド ラングレー・カークウッド ボニー・ヘナ
監督:クリント・イーストウッド
原作:ジョン・カーリン
脚本:アンソニー・ペッカム
撮影:トム・スターン
http://www.invictus.jp
ネルソン・マンデラの負けざる魂 [90点] [参考:1]
ネルソン・マンデラの名前は知っていても、彼がどのような人生を歩み、どのような業績を成し遂げたのかは恥ずかしながらほとんど知らなかった。
しかしこの作品から彼の苦境や苦悩そして南アフリカの民衆のために何をしたのかを知ることができたばかりか、人間とはここまで『赦し』の心を持つことができるものなのかと考えさせられた。
マンデラ大統領は27年もの長期にわたって囚われの生活をおくっていたが、この囚人生活から描き始めるといつものクリント・イーストウッド監督作品のような暗く痛い映画になったかも知れない。
だが本作は彼が釈放され南アフリカ初の黒人大統領に就任したところから始まり、対立していた黒人と白人とが和解し協調できる国にするために奔走する彼の姿を描くことにより暗さを感じさせない作品となっている。
マンデラ大統領は今は弱体化しているがアパルトヘイト時代は黒人差別の象徴であったラグビーチームが南アフリカで開催されるワールドカップで優勝すれば黒人と白人との和解と協調との象徴になると考え、当初はマンデラ大統領の考えに懐疑的であったチームのメンバー達もやがて彼の思いに応えるために団結してワールドカップに臨むのだが、これが実話であることに驚かされた。
本作で描かれている2つの戦い、その1つはマンデラ大統領が黒人も白人も同じ南アフリカの国民であることを民衆に理解させようとする静かな戦いであり、もう1つはラグビーチームが各国の強豪チームと文字通りぶつかりあう激しい戦いであるが、形は違ってもそれぞれが同じ目的を達成するための戦いであることが作品をより感動的なものにしている。
本作以外でもラグビーやアメフトの試合を描いた映画は観ていて力が入るのだが、マンデラ大統領の思いを受け負けることのできない戦いに挑む本作の彼らの姿にはいつも以上に力が入った。
先ほど暗さを感じさせない作品と書いたが、まったく暗さがない娯楽作品というわけではない。
かつてマンデラ大統領が収容され今は観光地となっている刑務所跡をラグビーチームのリーダーであるフランソワ・ピナールが訪ね、当時のマンデラ囚人に思いを馳せる場面は時間は短いがクリント・イーストウッドらしい痛さに溢れており、ピナールがマンデラ大統領の思いを心に刻み付ける重要な場面となっている。
この作品を観ていると差別することや戦争することの愚かさを思い知らされる。
戦いをするのはスポーツだけの時代がくれば世界の人々はもっと幸福になれるのではないか、とそんなことを考えてしまった。
マンデラ大統領を演じたモーガン・フリーマンとラグビーチームのリーダーを演じたマット・ディモンは共に引き込まれるほどの熱演であり、第82回アカデミー賞の主演男優賞と助演男優賞にノミネートされたのもなるほどとうなずける。
また映画自体も同賞の作品賞と監督賞にノミネートされなかったのがなぜかと思えるほど素晴らしい作品であり、クリント・イーストウッド監督作品は暗くて痛いからどうも…と敬遠している人にはぜひ観てもらいたい作品である。
それにしても昨年に引き続きまたもやこのような名作を世に送り出したハリウッドの良心、クリント・イーストウッドの衰えることを知らない映画にかける情熱が、次はどのような作品となって現れるのかが楽しみである。
2010/02/11 00:32