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インビクタス/負けざる者たち

Invictus
2009/アメリカ/ワーナー・ブラザース映画
出演:モーガン・フリーマン マット・デイモン スコット・イーストウッド ラングレー・カークウッド ボニー・ヘナ 
監督:クリント・イーストウッド
原作:ジョン・カーリン
脚本:アンソニー・ペッカム
撮影:トム・スターン
http://www.invictus.jp

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 その大統領の誕生は、熱い喜びと、激しい怒りで迎えられた。1994年、南アフリカ共和国初の黒人大統領、ネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)だ。
 マンデラは就任早々、国の最大の問題を大統領官邸で目の当たりにする。白人の職員たちが新政権の下を去るべく、荷物をまとめていたのだ。マンデラは、すぐに全職員を集めて、「“過去は過去”だ。皆さんの力が必要だ。我々が努力すれば、我が国は世界を導く光となるだろう」と語りかける。
 南アフリカは、問題を山のように抱えていた。不況、失業、犯罪増加──それらに立ち向かうためには、対立する黒人と白人をひとつにする──それがマンデラの願いだ。
 手始めにマンデラは、大統領警護班に4人の白人を配属する。さまざまな人種で創る“虹の国”は「君たちから始まる」と言うマンデラに、「俺たちを殺そうとした連中ですよ」と反発する責任者のジェイソン。それでもマンデラは「赦しが魂を自由にする」と諭す。前政権に27年間も投獄された人の言葉に、ジェイソンは驚きながらも従うしかなかった。
 さらにマンデラは、意外な行動に出る。ラグビーの南ア代表スプリングボクスの試合を観戦したのだ。ラグビーは白人が愛好するスポーツで、黒人にとってはアパルトヘイトの象徴だった。長らく国際試合から追放されていたチームは、“南アの恥”と言われるほど、弱体化していた。
 1年後、ラグビーのワールドカップが、南アで開催される。マンデラのなかで、何かが閃く。その日からマンデラは、秘書のブレンダが心配するのも聞かず、どの政策よりもラグビー強化を優先するのだった。
 まずは、チーム名を変えることを決定した国家スポーツ評議会を「今は卑屈な復讐を果たす時ではない。我々の国家を築く時だ」と説得してやめさせる。次に、スプリングボクスの主将、フランソワ・ピナール(マット・デイモン)をお茶に招待し、指導者のあり方について気さくに語り合う。そして投獄されたロベン島で絶望した時、ある詩が立ち上がる力をくれたという体験を語る。車で待っていた婚約者のネリーンに「大統領の用件は何?」と聞かれ、「たぶんワールドカップ優勝だ」と答えるピナールは、大統領の真の目的に気付き始めていた。
 過酷なトレーニングを続けるチームに、大統領から、PRの一環として各地の黒人地区でコーチをしろとのお達しが出る。「そんな時間はない」と怒る選手たちも、崩れかけた家に住む子供たちの、輝く瞳とはじける笑顔に触れたとき、時を忘れて懸命にスポーツの楽しさを伝える。彼らの歓声が一つになった空き地には、「一つのチーム、一つの国」のスローガンが書かれた看板が立っていた。
 1995年、遂にワールドカップが幕を開ける。サッカーファンだった黒人たちも、今やスプリングボクスを応援している。熱狂するスタンド、TVの前に集まる人々、南ア国民4300万人が見守る中、一国の、そして世界の歴史を変える“事件”が、始まろうとしていた──。

2010年2月5日(金)丸の内ピカデリー他 全国ロードショー