大いなる幻影 (映画史博物館)

問題作「大いなる幻影」 ジャン・ルノワールはおそらくフランスで最も偉大な映画監督である。「大いなる幻影」はルノワールの作品でも最も有名な作品だ。これを見ると、カメラワークや音楽の使い方はかなり稚拙で芸がないことに驚く。しかし、それなのにこの映画は、受け手をすこぶる感動させる。どうしてこれが凡作とならず、不朽の名作になれたのか。それは登場人物たちの人情味ではないだろうか。その意味ではルネ・クレールという名手もいるが、クレールがパリっ子の心意気を下町の雰囲気の中に限定して描いたのとは対照的に、ルノワールは戦争の中でも人間は人間であるという、世界普遍的なヒューマニズムを貫いている。エリッヒ・フォン・シュトロハイム演じるドイツの職業軍人が、フランスの職業軍人に見せた誠意と友情は、カメラワークが云々という以前に、そのメッセージ性が、受け手の心を大きく揺り動かす。これが少しも臭くならないのは、これがどことなくコミカルなタッチで描かれているからである。悲劇的な戦争映画かもしれないが、個々のシーンはどこかお茶目で賑やかな雰囲気がある。だからこそ味わい深く、ストーリーが身につまされる。悲劇と喜劇の絶妙のバランスがこの名作を支えている。 なお、これに主演したジャン・ギャバンは同年「望郷」にも出演しており、この年はまさに油が乗っていたころだった。

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