100年前のクラシック映画から映画史を読み解く


ジョージ・キューカー (巨匠の歴史)

■脚本は書かない
 「マイ・フェア・レディ」の監督として知られているジョージ・キューカー。真の大御所とは彼のことである。実に51年間も映画監督として活躍。これはチャップリンに次いで二番目に長い記録である。作品の本数でいえばヒッチコック、マイケル・カーチス、ヘンリー・ハサウェイと並びトップクラスで、ほぼ年間1本の割合で作品に関わった。
 キューカーの面白いところは、一度も脚本を書いたことがなく、プロデュースも一切しなかったこと。それともう一つ、彼の作品には作家の個性というものがない。彼にとって監督の役目は、脚本を見てそれを面白い作品に仕上げること、それだけだった。
 クセがない分、突出した傑作もないが、しかし彼の作品は必ずヒットしている。30年代40年代は最盛期で、作った映画はハリウッド・スタイルを象徴するものばかり。キューカーは教科書通りに映画を作ることができる大職人だったのである。むしろハリウッド・スタイルを築いた張本人はキューカーかもしれない。

■間違いのない監督
 さすがにハリウッドで長年働いている大ベテランなので、何か大作の話がでると、決まってキューカーの名が候補にあがるのである。実は「風と共に去りぬ」(39)も当初はキューカーが監督していた作品であった。
 もっとも特筆すべきことは、75年に「青い鳥」を監督したことである。「青い鳥」は初めての米ソ合作となる作品であった。この監督に最も適した人物は誰かと考えたところ、キューカーしかいなかった。実績があり、無謀なことはせずに確実に良作を作れる監督。キューカーこそ、最も監督らしい監督だったのである。

■女性映画の巨匠
 女優である。キューカーが最も得意としたのは、女優の魅力を引き出すことである。どれだけのスターが彼の作る女性映画に出演したか。キャサリン・ヘプバーン、ジーン・ハーロウ、ノーマ・シアラー、グレタ・ガルボ、グロリア・スワンソン、ジョーン・クロフォード、イングリッド・バーグマン、ジュディ・ガーランド、エヴァ・ガードナー、アンナ・マニャーニ、ソフィア・ローレン、マリリン・モンロー、オードリー・ヘプバーン、アヌーク・エーメ、ジャクリーン・ビセット・・・。アカデミー賞の主演女優賞を必ず取らせてしまうほど、キューカーの映画に出演している女優達は素晴らしい。

オリジナルページを表示する