2010年シネマガ編集部ベスト・テン発表

週刊シネママガジンのライターが選出する2010年のベスト・テンが出そろいました。3人の意見が一致した『トイ・ストーリー3』がこの年最も優れた作品という結果になりました。(2010/12/31)

澤田英繁(主にコラム担当)
アバター
1位アバター
2位『プリンセスと魔法のキス』
3位『時をかける少女』
4位『トイ・ストーリー3』
5位『悪人』
6位『借りぐらしのアリエッティ』
7位『ヒックとドラゴン』
8位『すべて彼女のために』
9位『孤高のメス』
10位『誘拐ラプソディー』
この年の人種田陽平

まだ見ていない大作がたくさんあるが、僕は映画というものは見たいと思わせるきっかけも大切だと思うので、まだ見てない映画については「公開中に見たいと思わせる力が足りなかった」ということにした。

2010年で最も話題を独占したのは『アバター』だった。惑星パンドラの世界観と映画を見ているときの没入感はただものではなく、映像美と音楽に酔いしれた。映画って凄い。こうして空想の世界を創造して形にできるのだから。

この年はアニメの傑作が目立つ一年だった。その中でイチオシは『プリンセスと魔法のキス』。手描きスタジオを封鎖したディズニーが何年かぶりに復活して本領を発揮。ダイナミックな筆致にただただ圧倒された。『トイ・ストリー3』は緻密に作り込まれたストーリーと世界観に脱帽。『ヒックとドラゴン』はキャラクターの質感、空を飛ぶシーンの爽快感に感動した。

あなどれないのが『時をかける少女』。思いのほか色々なところで映画の文法が使われていて、二回目見た時は一回目よりも感心させられた。娯楽映画の殻をかぶっているが、これは小説でも演劇でもない、映画ならではの映像芸術。その意味でも邦画のベスト1だと思う。

原作を読んだわけではないが、小説を脚色した映画も多く選出した。『悪人』は気持ちのいい映画ではなく、見終わった後もかなり引きずるが、これほど映画を見ていて心を揺さぶられたことはない。ドラマとしての面白さでいえば『孤高のメス』の方が娯楽性が高く安心して見られる。主人公の天才ぶりがかっこいい。『誘拐ラプソディー』はコミカルな犯罪ドラマ。この年映画館で最も大声で笑った映画である。

日米だけではなく、ヨーロッパからも一本選出。フランス映画『すべは彼女のために』は脱走映画の秀作。ハードボイルドなサスペンス映画としても見事だが、すべてを投げ捨てて決断するところには痛く胸を打たれた。

この年の人「種田陽平」は、『悪人』、『借りぐらしのアリエッティ』の美術監督である。『借りぐらしのアリエッティ』の何が凄いかといったら、生活感あふれる小人の家の美術だった。種田陽平は、映画における美術の存在を初めて我々に認識させた功績者。映画を美術で見るという新しい見方も生まれた。

この年は、iPadのような電子書籍、YouTubeなどのウェブにおける映像配信などが話題を呼び、映画のマーケティングから、映画の見方まで確実に変わった。技術発展の目覚ましい今、業界の動向が面白い一年だった。

沢登健(主にニュース担当)
悪人
1位悪人
2位『キック・アス』
3位『告白』
4位『トイ・ストーリー3』
5位『ヒックとドラゴン』
6位『第9地区』
7位『ぼくのエリ 200歳の少女』
8位『黒く濁る村』
9位『ハート・ロッカー』
10位『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』
この年の人深津絵里

 2010年も例年と同じように映画祭での上映作品を含めて約700本鑑賞した。その中で劇場公開作品の個人的なベスト10を紹介する。

 第1位は、下半期にモントリオール映画祭で深津絵里が主演女優賞を受賞するなど話題にもなった『悪人』。内容的には決して明るい映画ではないが、これまでのイメージを捨て去った妻夫木聡、体当たり演技に挑んだ深津絵里が素晴らしく文句なくダントツ。この年一番感動した映画。2011年に行われる2010年各映画賞レース争いでも賑わすのは間違いないだろう。

 第2位、第3位は共に甲乙付け難いが、エンターテイメント性と娯楽性を重視して順位を決めた。当初全国で4館でのみ公開された『キック・アス』だが、初日から満席続出で急遽拡大上映が決定するなど口コミ評価も高く、正月映画の一押し。特殊能力ゼロ、モテ度ゼロ、体力微妙ななりきりヒーローの娯楽作品にも関わらず、感動もある秀逸の出来。特にクロエ演じるヒットガールの軽快なアクションには、目を奪われる。内容的に仕方がないが、R15+のレーティングで鑑賞可能な年齢に制限があるのが悔やまれる。
 『告白』は上半期の段階でベスト1と評価していた作品で、正直この年はこれ以上の作品は無理かなと思っていたほどだった。

 第4位と第5位は、アニメの秀作2本。ファミリー層だけでなく、あらゆる年齢層が見ても感動する内容。近年公開されている海外アニメ作品は、実写映画を超えるストーリー性があり、内容的にも凌駕していることも多く、見逃せないジャンルの1つとして確立したと断言していいだろう。
 第6位から第10位は、順位を左右するほどの大きな決め手がなく非常に迷いながら趣味と評価を交えての表記の結果となった。この年大ヒットした『アバター』を皮切りにブームとなった3Dは、全般的に残念ながらイマイチ。何よりも3Dを前提で最初から製作した作品が少なく、2Dから3D変換したものが多く、立体映像効果と共に内容的に十分でなかったように感じられた。

 2010年に一番心に残った一人は、「深津絵里」。2010年度の映画ベスト1に選んだ『悪人』における演技の一言に尽きる。それほどまでに印象が強く心に残った作品だった。

 2010年を総括すると話題の大作は数多く公開されたものの印象に残り、人に薦めることの出来るレベルの作品が残念ながら決して多くなかった。洋画も一時より盛り返しの傾向が見られるが、ハリウッドを中心とする大作以外では苦戦しているように思われる。

 2011年は海外で賞レースで総なめの『ソーシャル・ネットワーク』、内容的に地味だが家族の大切さを実感する感動作品『愛する人』などを筆頭に、数多くの話題作が控えている。2011年は、話題作だけでなく、良質で優れた作品に出会えることを期待したい。

中西あきら(主に映画紹介担当)
インビクタス
1位インビクタス/負けざる者たち
2位『RAILWAYS 49歳で電車の運転手になった男の物語』
3位『トイ・ストーリー3』
4位『月に囚われた男』
5位『ロビン・フッド』
6位『最後の忠臣蔵』
7位『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』
8位『時をかける少女』
9位『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』
10位『エクスペンタブルズ』
この年の人仲里依紗

『インビクタス』は、スポーツ映画によくある主人公の成長と試合の勝ち負けによる緊迫感を主題にしながらも、イーストウッド監督らしい痛さを忘れていないのがいいですね。何より争いではなく赦しの心で祖国の平和を試みたマンデラ大統領の姿に感銘を受けました。『RAILWAYS』は、人生の転機を少し過ぎた男が家庭の事情でこれまでの生活を捨てながらも、後ろ向きに生きるのではなく、逆にこれをチャンスと考えて新たな夢を追いかける姿がいいですね。彼一人の努力だけでは成し遂げられなかったであろう夢に向かって、家族や周囲の人々の理解と協力によって一歩一歩近づいていくのを羨ましく思いました。

『トイ・ストーリー3』は、ちょっとした誤解から危機に陥ったバズたちが捕らえられたまるで収容所のような施設をどこにでもある用具を使って作り出したアイデアが秀逸です。CGアニメならではのウッディの活躍にハラハラしながらも、CGアニメとは思えないアンディの表情に涙しました。『月に囚われた男』は、いつの間にかまったく違ったストーリーに引きずり込む手腕と、ほぼ一人芝居のサム・ロックウェルの演技が素晴らしい作品です。

『ロビン・フッド』は、ロビン・フッド誕生秘話といえる作品です。中世ヨーロッパを舞台にしたものは苦手なのでどうかなと思ったのですが、ロビンの運命を左右する出来事とやがて彼が民衆に求められて英雄になっていく姿、戦闘場面の迫力に見入りました。『最後の忠臣蔵』は、派手な殺陣はほとんどなく、裏切り者と蔑まれても主君の密命に実直に生きた男の姿に泣かされます。賛否はあると思いますが、日本の武士と西洋の騎士の違いを再認識しました。また主人公が隠れ住む家の苔むした様子や時代劇ならではのセットが素晴らしく、日本映画の美術力の高さに驚かされた作品です。

『踊る大捜査線3』は、ファンには嬉しいですね。テレビドラマと比べると舞台である湾岸署やお台場の様子が大きく変わっているのに月日の流れを感じます。『時をかける少女』は、仲里依紗の魅力に溢れた作品になっています。時間を超えた恋の結末を切ないと感じるか悲しいと感じるかで好き嫌いが分かれますが、2010年では最もピュアな純愛作品として心に残りました。

『プリンス・オブ・ペルシャ』は、CGをクライマックスまではあまりでしゃばった使い方をしていないのがよりアクションシーンの迫力を増していたと思います。『エクスペンダブルズ』は、突っ込みどころは満載なのですが、それを忘れさせるくらい強引な展開を平気でやってのけたスタローン監督はすごいですね。

この年の人「仲里依紗」は、『純喫茶磯辺』で初めて目にした時から注目していたのですが、この年は映画やテレビドラマの出演が増えたのが嬉しかったですね。目の覚めるような美人と言うより庶民的な可愛さのある女優ですが、その屈託のない笑顔が魅力的です。アセロラドリンクのCMで見せるちょっと笑えるポーズも彼女ならではの面白味に溢れています。2011年はこれまでとは違った役柄で活躍の場を広げると確信しています。

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