映画『モテキ』特集 4人の美女たちとの出会い
映画『モテキ』がいよいよ公開初日を迎えた。以前ドラマ『モテキ』を猛プッシュしたウチとしては、これを特集しないわけにはいくまいて。
以前、渋谷タワレコのドラマ版DVD発売時に東宝から直々に「他社には声をかけていません。ぜひ御社に取材して欲しいのです」と嬉しい誘いがあって、ほぼ独占の形で取材させていただいた(なぜ「ほぼ」独占なのかというと、ウチの他にもナタリーが取材に来ていたため)。ドラマの特集記事は読者の反響も良かったので、映画の製作発表があったときには、映画版も大きくここで取り上げるつもりでいた。
ところが、映画版は記者会見も完成披露挨拶も、ウチの知らない間に終わっていたし(涙)。力不足ですみません。せめて初日舞台挨拶だけでもと思い、テレアポしてやっと取材することができた。恋も仕事も受け身じゃダメってことか。というわけで、ドラマ版の特集を読んでくれた読者の皆さん、お待たせしました! 映画版の特集です!
お客さんは草食系男子ばかり?
筆者はこれを新宿バルト9で見た。1800円、自分のお金で見た理由は、一ファンとして見たかったこと、そして、ここに率直な意見を書きたかったからである。本音で書くこと、それが大根監督に対する礼儀だと思っている。
チケットは満席の売り切れ。その次の回も残り数席しかなくて、チケットを買う時点で大ヒットしている確かな実感があった。余談だが、筆者は上映までの待ち時間に『スリーデイズ』を見たが、良い映画なのにこちらは同じ初日でもガラ空きであった。いったいなんなんだこの人気の差は。テレビ東京の深夜ドラマが、放送から1年後に早くもこうして映画化され、大ヒットするなんて、これは異例中の異例ではないか。
満席の映画館で映画を見たのは久しぶりである。全席埋まった映画館はとても気持ちがいい。お客さん全員で同じタイミングでドッと笑って楽しい初日だった。客層は主に20代・30代の男性が多かったように思える。カップルはほとんど見なかった。ほとんどが見た目は草食系男子ばかりだった気がする。筆者も他人の事を言えたものではない。ある意味、『モテキ』は最もリアルな恋愛映画なので、男たちも主人公の幸世に共感したのであろう。共感しながらも、この幸世という男が、自分の悪いところを見ているようである。
選択肢の中の最良の選択
ドラマ版『モテキ』はとても評価が高い。それゆえに映画化にはプレッシャーがかかる。製作者としてはドラマの方が面白いとは言われたくないだろうし、できれば勝ちたいもの。どのように料理するかが最大の問題である。スタッフ・キャストを一新するというのもありだし、その逆もありだ。また原作の第一話からリセットするのもありだし、ドラマの続きを作るのもあり。方法、選択肢はいくらでもある。
色々な選択肢がある中で、『モテキ』はおよそ最高の選択肢が選ばれてできた作品と言って良い。ドラマと同じ大根監督がメガホンを取り、ドラマと同じ森山未來が主演をする。しかし美しき女優たちは全員一新。役はそのままに女優だけすげ替えてまた第一話からリセット?かと思いきや、ドラマの最終回から1年後の続きを描くというもの。しかもストーリーは原作者久保ミツロウの完全書き下ろしである。映画版の女優4人は原作・ドラマには出てこない、まったく新しい登場人物。ドラマと完全リンクしているが、久保ミツロウの新作ストーリーは、この映画でなければ楽しめないわけだ。
もちろんオープニングは女神輿!
主人公幸世にとっては、二度目のモテキ到来。また新たな出会いが描かれる。言わば、美女たちは刷新されたのではなく、『モテキ』ガールズコレクションの中に新たに4人追加されたことになる。ファンとしてはニヤニヤがとまらないわけである。ドラマ版でも野波麻帆、満島ひかり、松本莉緒、菊地凛子という美女たちに囲まれてキラキラとゴージャスであったが、さらに映画版で長澤まさみ、麻生久美子、仲里依紗、真木よう子という美女たちに囲まれ、『モテキ』ブランドのキラキラ度、ゴージャス度がヨダレが出るほどアップした。
映画版の4人を、ドラマ版のタイトルバックと同じように女神輿で描いて見せるこのぜいたく。やはり『モテキ』は女神輿を見なければ始まらない。『モテキ』はいわばロックコンサートのようなもの。ロックコンサートでは、定番の曲を歌うところで観客は一番盛り上がるもの。それと同じで、『モテキ』にとって女神輿は最も盛り上がる定番曲である。これをやらなきゃ観客は満足してくれない。もし他のオープニングだったらがっかりしただろう。筆者もフジファブリックの「夜明けのBEAT」が流れてきた瞬間が最もコーフン(鼻血)した瞬間だった。大根監督はわかってる!
ドラマと映画の違い
映画版では、前半部分は、ほぼドラマ版の流れが踏襲されている。幸世の人生観の独白に始まり、野外ロックフェスに行き、突然カラオケのシーンになったりミュージカルみたいになるのはドラマのまんま。挿入歌に大江千里やPerfume(映画では本物も登場!)を使っているのは相変わらず。映画だからといって映画ぽくせず、ドラマと同じように作られているのでホッと一安心。ドラマを知っている人にとってはニヤリとくる内容であり、ドラマを見たことがない人にとっては、『モテキ』スタイルがよくわかる出だしになっている。
映画というのものは、いつ見てもいいように時代の流行をなるべく描かないように作られるものだが、驚いたことに、この映画では潔いくらい今時の流行のガジェット、サブカルチャーをふんだんに取り入れている。しかも実名で! これはつまり、今だからこそ一番面白い。今だからこそ見るべき映画である。
天才監督 大根仁 デビュー
大根仁監督は、業界では天才と言われている監督であるが、まだ一本も映画を作っていなかった。映画業界としては、なんとしても引き込みたい人材であった。大根監督はドラマ『モテキ』で、「自分のやりたいことは全部やった」と語っている。「悔いはないから映画化のオファーが来ても断る」とまで断言していたが、人間とは心変わりするもので、久保ミツロウから「大根監督が作るのであれば映画化してもいい」と言われ、大根監督は映画デビューを決意するに至った。
映画の世界でも大根監督は我が道を行く監督であり、映画業界のノウハウに則って作っていない。普通ならカメラ1台で撮影するところを3台で撮ったり、時には自らカメラを抱えて撮影した。自分の思い描く世界を形にするため、監督・脚本・撮影・編集・音楽、何でも自らやった。女優の胸の谷間や太ももを舐めるように捉えるカメラは、まさに大根監督だとすぐわかるカメラワークだ。また、歌詞がそのまま登場人物の心情に合致するJ-POPの見事な選曲ぶり、女王蜂、在日ファンクなど実際のミュージシャンがカメオ的に出演する映像のライブ感など、この映画には大根流の本物志向が脈々と息づいている。
登場人物とキャスト
幸世(31)・・・森山未來(27)
筆者の解釈ではドラマ版の最終回で幸世はセカンド童貞を卒業していると思っていたのだが、どうやら違っていたらしい。仕事をやらなくちゃいけないというところでは大人として少し前進しているが、恋愛面についてはドラマのときとまったく変わっていない。相変わらずTシャツこそ一番のオシャレと思っているし。
映画では幸世は先述したナタリーに就職して職業はWebライターになった。まさか筆者の同業者になろうとは。ドラマ版にも増して幸世が自分自身とダブってしまうではないか。幸世の取材の段取りの悪さといったらまるで自分みたい。自分のことのようだから見ていて心が痛くてたまらない。しかし、この痛みこそ『モテキ』のすべて。筆者の隣に座っていた男性客も、ところどころのシーンで、幸世を見て何かを思い出したのか、まるで失恋したときのようなでっかい溜め息をついていた。
演じた森山未來にとって、これは間違いなく生涯の代表作になったであろう。しかし、TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われた初日舞台挨拶では「もう二度と関わりたくない」と冗談ぽく語っていた。森山にとっては、こういう童貞のイメージが役どころとして定着してしまってはたまったものではない。ご安心を。森山未來がいい人だということは、ドラマ版のDVD-BOXの特典映像を見ればわかることである。
みゆき(26)・・・長澤まさみ(24)
長澤まさみというと『タッチ』のイメージがあるが、この役名はそれを意識してなのか「みゆき」である。いかにも長澤まさみっぽい名前である。森山未來とは『世界の中心で、愛をさけぶ』で共演して以来7・8年ぶりの再共演となる。『セカチュー』がセンセーションを巻き起こしたビッグすぎる作品なだけに、長澤は「この先の共演は無理だろうと思っていた」とも語っていたが、あの黄金のカップルが吹っ切れたようにここに復活した。
長澤まさみは、ドラマ版でいう野波麻帆に近い立ち位置である。両者ともに東宝シンデレラである。長澤は『セカチュー』以後、東宝が最も大切に育てて来た女優であり、例えるならば箱入り娘みたいなものであった。そこで大根監督は、長澤まさみの女性的な才能を解き放ち、とびきりキュートでエロいキャラクターとして描くことに徹した。『曲がれ!スプーン』の長澤まさみも無茶苦茶可愛いけれど、『モテキ』の長澤まさみは、それとはまったく違った可愛さが出ている。そして、可愛すぎるばかりに、他の男と喋っているところを見ただけで嫉妬で腸わたが煮えくり返るようなキャラクターがここに誕生した。映画を見終わった後、連んで見にきていた男たちが「つーか、長澤まさみがクソ可愛いかったね」と何度も連呼していたのが印象的だったが、筆者も同じ感想である。
るみ子(33)・・・麻生久美子(33)
これを見て、麻生久美子は本当にどんな役でもできるんだなと思った。でも今までの作品の中では、筆者は個人的にこのキャラクターが一番好きかな。いや、マジで可愛いと思うし。それゆえに、幸世がるみ子にひどいことを言うシーンにとにかくムカつくわけで。幸世どうしょうもねえなと。この毒が『モテキ』の面白さなんだろうけど。麻生久美子の迫真の泣きの演技に思わず胸キュン。切ない。続くリリー・フランキーとのチョメチョメのシーンには怒りさえ覚えるが、大根監督が舞台挨拶で「俺設定では、あれはるみ子から誘ったんだ」と語ると、麻生は「へー」となんだか納得できない表情だった。どうやら麻生本人もるみ子のことが好きだったようだ。
愛(25)・・・仲里依紗(21)
仲里依紗は、去年最も目覚ましい活躍をした女優だと思う。『時をかける少女』は去年の筆者マイベスト邦画。それ以来筆者もずっと応援しているので、『モテキ』の参加は一ファンとして嬉しかった。想像通りの役柄だったが、ただ出番がちょいとばかし少ない。とは言え、たったあれだけの出番で、他の3人と対等のインパクトを残しているところはさすがである。あれ以上出てしまうと他の3人の印象が弱くなってしまうので、あれぐらいが調度良いのかもしれない。ちなみに幸世が彼女の胸の谷間を見るシーンは本作でも最も笑えるシーンであり、実際映画館では観客みんなで爆笑していた。
素子(33)・・・真木よう子(28)
大根監督とはドラマ『週刊真木よう子』でずっと一緒に仕事をしていたので、ドラマ版『モテキ』で声をかけてくれなかったときには本当に悔しかったそうだ。だから映画版に誘われたときには、どんな役でも受けようと思ったらしい。ところがこの役、幸世に愛の手ほどきをする設定なのだが、立ち位置としてはドラマ版の菊地凛子みたいなところで、ひどいドSキャラだった・・・。せっかく真木は美人なので、筆者はオードリー・ヘプバーンみたいな役で出てくれることを期待していたのだが、これが久保ミツロウの趣味なのだろうか。しかし最後のシーンの一声はSキャラだからこそぐっとくるセリフになった。
ちなみに舞台挨拶では客席から「蹴られたい!」と声がかかっていたが、真木は「あ、そうですか」と苦笑いしていた。
舞台挨拶に登壇したキャストの服装に注目。偶然なのか示し合わせたのか、みんな揃って格子柄である。その服の色がそのまま登場人物の性格のイメージカラーを表していると言える。みんな実年齢よりも年上の役を演じているのがいいね。この日は女神輿のシーンにも登場するハッピガールズもかけつけ、おなじみの「好きよ!抱いて!」の掛け声で盛り上げた。
最後に、大根監督の言葉を引用してこの特集を終わりにしたい。
「原作の『モテキ』を一番愛してるのは久保ミツロウだと思うが、ドラマの『モテキ』を一番愛してるのは俺だと思う」
作品にかける愛情の深さを感じることができる素晴らしい名言である。大根監督の血であり肉である『モテキ』。ここまで作品に愛情を注ぎ込める監督が作った作品だから、やはり他の映画とは何かが違っている。その何かをぜひ劇場で確かめてもらいたい。(文・写真 澤田英繁)
<おまけ>
ちなみに、この日の司会は秋元玲奈アナウンサーだった。「自分のつきあいたい人しか選ばない」という大根仁監督のこだわりが実はここにもあったというわけかっ。
2011/09/24 22:45