小学生お笑いコンビ まえだまえだ が映画初主演作『奇跡』で天才的才能を発揮

『奇跡』

5月5日、こどもの日に、『奇跡』の完成披露試写会及び記者会見が有楽町の朝日ホールにて行われ、監督の是枝裕和(48)と、キャストの前田航基(12)、前田旺志郎(10)、オダギリジョー(35)、樹木希林(68)、阿部寛(46)、内田伽羅(11)、林凌雅(12)が舞台挨拶を行った。

九州新幹線が開通。福岡から南下する”つばめ”と鹿児島から北上する”さくら”の一番列車がすれ違うとき奇跡が起こる。親が離婚して福岡と鹿児島に離ればなれに暮らす兄弟が、再び家族4人一緒に暮らせることを願って、奇跡を信じて熊本へ行く物語。

主役はお茶の間でもお馴染みのお笑いコンビ”まえだまえだ”。二人が今をたくましく生きていく姿がキラキラと瑞々しい。『誰も知らない』で一度は子供を描き、カンヌにも認められた是枝監督が、実生活でも父となり、再び子供について描いた。

是枝監督は、映画を監督から語らせてしまうほど日本でも稀有な映画作家である。今巷に溢れている映画の大半には小説だったり舞台だったり何かしら原作があるものだが、その中で是枝監督のように自らオリジナル脚本を書いて勝負する映画作家は少なく、しかも是枝監督の場合、編集まで自分の手でこなす大変貴重な存在である。鹿児島と福岡、二つの場所で展開するドラマを並行して描き出す様は映画ならではのおもしろさ。小説や舞台では表現し得ない、映画らしい表現力にあふれていて、じわじわと感動がこみ上げてくる。

JR九州が協賛しているが・・・

福岡、熊本、鹿児島を結ぶ九州新幹線が開通したことを全国に広めるべくジェイアール東日本企画がこれを映画にすることを企画したのがすべての始まり。是枝監督は会見で「こういうタイアップ企画というのはだいたいコケるんだよね。お題を頂いてスタートしたときには、不安もあったが、JRの人たちが自由に作らせてくれた。ある種の嫌らしいタイアップ感は綺麗になくなっている。綺麗に一本の映画としてできたのは奇跡的なこと。難しいことにチャレンジできた」と語っていた。

本作には是枝ファミリー含めオールスターキャストが集結した。大塚寧々、夏川結衣、長澤まさみ、役者の名前をあげるといかに豪華な配役かわかるが、あくまで主役は子供達。これだけのスターが脇役に回るこのなんというぜいたくか。それでいて、いずれのキャラクターも役不足とならず、少ない出番ながらも象徴的な役柄で脳裏に焼きつく。中で橋爪功は出色。「脇を固める」とは文字通りこのことだ。

これだけの顔ぶれの中で堂々と主役を張ったまえだまえだの二人の演技には目を見張るものがある。是枝監督はオーディションのとき、二人がお笑いコンビをやっていたことを知らなかったというが、それでも二人でやることを決めていたという。是枝監督は二人の性格を観察した上で、脚本を二人にとって最もぴったりと思えるキャラクターに書き直し、二人だからこそなし得るストーリーに仕上げた。

完成披露試写会でのお笑いトーク

完成披露試写会の舞台挨拶では、まえだまえだの天才子役ぶりがそのまま発揮された。兄・航基は芸達者で、「はっきりいってめっちゃ緊張してるんで、たまに途中ようわからんこともいうかもしれないんですけど、最初オーディションから始まって通って、しかも初主演と聞いて、ここに立っていること自体、ちょっと臭くなっちゃうんですけど、"奇跡"かなと思います(会場笑)。監督が"世界"の是枝監督なんで(会場笑)自信をもって面白い映画と言えます! 絶対面白いです! あと、最初の方に出てくることとかが結構後の方に響いてたりするんで、本当に一字一句見逃さないように見ていただけたら楽しいかなと思います。」と観客を大いに盛り上げた。

本作で初めて父親役を演じたオダギリジョーは、二人の前で「この二人が本当にしっかりしてて、この二人のあとに挨拶するのが怖くて怖くて。自分がいかにダメか。この挨拶の時点でだめですね。二人は芝居をしててもキャッチボールが早いし、大人のはずの僕がうまくキャッチしてあげてるのだろうかと僕の方が心配でした。僕が足をひっぱらないようにしないといけないなという気持ちでした。」とタジタジだった。

会見では、オダギリは”奇跡”について「朝ハンバーガーを食べたら前歯が折れたんですよ。パンで歯が折れるというのは”奇跡”に近いです。びっくりしました。」と語るなど、相変わらずユニークな発言が目立ったが、こんなオダギリの印象を訊かれた航基は「すごく男前じゃないですか。男前なんで、もっと静かなイメージがあったんですけど、意外と喋ってくださいました。男前で喋ってくださったんで、すごい方やなと思いました。」と語り、終始記者陣の笑いを誘っていた。

ぐいぐいとみんなをリードしていく航基に対し、旺志郎は天然の天才肌といった感じ。「オダギリさんにギターの弾き方を教えてもらいました」と言う無邪気な笑顔に会場も癒されていた。作品の中でもこの兄弟の性格は大阪弁のままそのまま活かされている。

期待の女優・内田伽羅

内田伽羅(きゃら)は、樹木希林の孫であり、樹木の勧めでオーディションを受け、初めてこの役を勝ち取った。内田が福岡側、樹木が鹿児島側の登場人物だったため同じ場面で共演することはなかったが、まえだまえだの動的な部分に対して内田は全体の静的な部分を担当し、準主役的位置づけだ。その演技は静かなる感動を呼ぶ。映画出演は当初親に反対されたそうだが、映画に出て「お芝居が面白くなってきた」とのこと。『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』のオダギリも出演しているのだから俄然やる気も出たことだろう。実に、この日集まったマスコミの多くは内田伽羅目当てで来ており、スターのDNAを持つ新人に対する注目度の高さがうかがえた。

『奇跡』というこの堂々たるタイトル。カタカナのタイトルが多い昨今では、漢字二文字のタイトルには重みと深みを感じるが、作品の内容もこのタイトルに負けることなく、タイトルが作品にミラクルな光沢を与えている。公開は6月11日(土)から(6月4日に九州先行公開)。奇跡を信じて走る子供達のひたむきな姿が忘れられない、この年最もピュアな傑作。(映画評:澤田英繁)

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2011/05/07 2:48

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