『しあわせの雨傘』フランスが誇る大女優カトリーヌ・ドヌーヴ

『しあわせの雨傘』

「女優」と聞いて、パッと思い浮かべるスターといったら、オードリー・ヘプバーンだったり、グレタ・ガルボだったり、原節子だったり様々だけど、フランス映画が好きな人の多くは、カトリーヌ・ドヌーヴの顔を思い浮かべるだろう。映画雑誌などの企画でオールタイム女優人気ベスト・テン的なものを決めた場合、必ずといってランクインされる常連。まさに大女優だ。しかもドヌーヴは今もバリバリの現役。いまだにフランスでは最も影響力のあるトップスターである。そんなカトリーヌ・ドヌーヴが、先日10月に行われた東京国際映画祭に『しあわせの雨傘』をひっさげて来日した(今年2度目の来日)。今年の映画祭では、間違いなくドヌーヴが一番のビッグゲストだっただろう。このページでは、舞台挨拶の模様を振り返りながら、女優カトリーヌ・ドヌーヴについて書きたいと思う。

まずこの『しあわせの雨傘』について。監督は現代フランス映画の天才といわれるフランソワ・オゾン。そして共演はおそらくフランス映画で最も主演作が多いとされるジェラール・ドパルデューである。最高の監督と最高の俳優、最高の女優が組んだコメディという、色鮮やかな夢のような映画が誕生した。タイトルからは彼女の代表作『シェルブールの雨傘』を思い起こさずにはいられない。まだフランスで公開前のこの話題作が、一足早く映画祭でお披露目となった。

TOHOシネマズ六本木ヒルズの5番スクリーンで行われた舞台挨拶では客席は満席。この大女優を一目見ようとマスコミも殺到し、映画館は客席から通路まで観客・カメラマン・記者に埋め尽くされた大変な状況で、「ドヌーヴに対して5番スクリーンは失礼。1番スクリーンでやるべきだろう」といった批判の声も多く寄せられていたほど。当初来日を予定していたオゾン監督が欠席となっても、ドヌーヴだけでこれだけの人を集めたのは大したものだ。

ドヌーヴが舞台袖から登場すると、客席からは「おおお!」という歓声があがった。筆者が初めてドヌーヴを見た印象は「可愛い」だった。意外かもしれないが、67歳になっても、何か仕草や表情にあか抜けたところがあって、本当にチャーミングなおばさまという感じだった。しかし、堂々というよりは、すごくリラックスした感じ。アットホームな雰囲気なのに、それでいてとても品があり、とても優しい表情をしていた。

舞台挨拶の花束ゲストには、女優の真矢みきが登壇した。女性からも愛され、尊敬されるというところがドヌーヴと真矢の共通点である。

真矢はドヌーヴについて「スクリーンを通さずお目にかかれるのが光栄です。カトリーヌ・ドヌーヴさんにちなんで、雨傘が必要な、ちょっと小雨になってきたことがとてもロマンティックだと思って家を出てきました。ドヌーヴさん演じるスザンヌさんを見ていると、時代が変わろうとも永久に変わらない愛でつつまれているという感じがしました。いつもエレガントさの中に凛とした強さを感じます」と粋なコメントで雄弁に語ってくれた。

最初のシーンではドヌーヴがジャージの格好で登場し、ここで映画ファンを驚かせたが、ドヌーヴ本人は「私を知っている人なら不思議とは思わないわ」と余裕の表情だった。自らヘアカーラーをつけるよう提案して突飛なイメージを出したというからさすがは大女優である。『しあわせの雨傘』は、社会の中に自分の居場所を探す「女性映画」。このシリアスで奥が深いテーマをコメディとして誰にでも楽しめるものにするためには、『反撥』、『哀しみのトリスターナ』などで数々の名演技を残してきたドヌーヴほどの大女優でなければ成し得なかったに違いない。人生を楽しむコツについて「今現在を楽しむことです」と語るドヌーヴは、今後も生涯現役でフランス映画の中心的存在として我々の期待に応えてくれることだろう。

しあわせの雨傘』は、ギャガ配給で、2011年1月、TOHOシネマズシャンテ、新宿ピカデリー他全国順次ロードショー。(文・澤田英繁)

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2010/11/07 22:38

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