ハリウッド映画張りのスケール!伊坂幸太郎原作『ゴールデンスランバー』今度はビートルズだ!
現在公開中の『ゴールデンスランバー』が話題になっている。伊坂幸太郎(原作)、斉藤和義(音楽)、中村義洋(監督)のトリオが『フィッシュストーリー』に続いて放ったアクション・ミステリー映画である。彼らが狙ったのは「ハリウッド映画のようなスケール」。なかなか他の日本映画では見られない、まさにハリウッド映画を見ているような気持ちにさせる大作である。前作『フィッシュストーリー』は散らばったパズルのピースが最後にピタリとはまる見事な話術が批評家から絶賛されたが、単館系の公開だったためにヒットしたとは言い難かった。しかし、今回は『フィッシュストーリー』の構成の妙味を引き継ぎつつスケールを大幅にアップ。全国ロードショーとあって、早くも注目を集めている。主演は『ジャージの二人』、『ラッシュライフ』の堺雅人。ヒロインは『チーム・バチスタの栄光』、『ジェネラル・ルージュの凱旋』の竹内結子。今のりにのっている人気役者が共演した。
劇中で聞かれるロックのうんちくは、伊坂映画の醍醐味のひとつといえる。これまで『アヒルと鴨のコインロッカー』ではボブ・ディラン、『フィッシュストーリー』ではセックス・ピストルズがモチーフになったが、『ゴールデンスランバー』ではいよいよビートルズがモチーフに。タイトルの『ゴールデンスランバー』はビートルズが発表したロックの名曲だ。史上最強のロック・バンドが最後の最後に放った曲がこれで、当時ビートルズの4人の仲は崩壊寸前だったが、それでも完成した曲はあまりにも美しく、素晴らしいものであった。余談だが、ポール・マッカートニーは今でもライブの一番最後に「ゴールデンスランバー」を演奏するのが通例であり、リンゴ・スターもこれを「ビートルズが作った一大傑作」と評している。映画では、この名曲が何度も歌われ、作品の登場人物の関係を象徴している(ビートルズのアルバムジャケットにそっくりの場面もある)。斉藤和義はサントラ用にこの曲をカバーし英語で歌っているが、この他にも多数楽曲を提供しており、映画とロックを見事に融合させている。堺雅人が下水菅を走って逃げるところで流れるBGMなどロックしていてやたらとカッコイイ。映画の中で渋川清彦演じる宅配ドライバーが何度も「ロックだな」とつぶやくように、たしかに近年これほどかっこよくロックと映画を見事に融合させた映画は他になかっただろう。
こう書くとロックファンでなければ楽しめない映画と思われるかもしれないが、もちろんそんなことはなく、ビートルズを知らなくとも楽しめる万人受けの内容になっている。首相暗殺の犯人に仕立てられた堺雅人がひたすら逃走を続ける話であり、何の力もない人間が、強大な国家権力を相手に戦うというもの。首相暗殺のシーンは、本当にアメリカ映画を見ているようで、映画ファンとしてはゾクゾクっとくるものがある。中村監督は『フィッシュストーリー』では短いストーリーを膨らまして1本の映画にしたが、今回は大作小説を1本の映画に凝縮。仲間たちの信頼関係の描写には大きな感動を呼ぶが、それ以上に、構成の巧さに惚れ惚れしてしまう。「うまい映画をみた」という快感が得られる一本である。
初日の1月30日(土)に有楽町で行われた舞台挨拶には、堺雅人(36)、竹内結子(29)、吉岡秀隆(39)、劇団ひとり(32)、香川照之(44)、濱田岳(21)、貫地谷しほり(24)、中村義洋監督(39)が登場。客席から「たいへんよくできました!」という声援に迎えられた。
『アヒルと鴨のコインロッカー』、『フィッシュストーリー』で主役を務めた濱田岳は3本連続の出演。「僕は初めてアクションを経験しまして、ワイヤーを使ってるんですけど、ワイヤーを信頼しすぎて、自分ががんばることを怠ってしまい、いざバック転してみたら、垂直落下ブレーンバスターみたいになってしまいました。皆さんはワイヤーにかかることがないといいですね」と相変わらずのユーモラスなトークで会場を沸かせた。
以前から中村組に入ることを熱望していた香川は、「いつの間にか僕が一番年上になって、現場では何も言われなくなってきて、年を取ったなあと思っていたのですが、本当は羽を痛めた小鳥のように現場では僕を支えて欲しい気持ちなんです。中村監督はリハーサルのときに何回も指示してくれて、一番大事なシーンでは、もっと手をゆっくりこうやって動かすようにと物凄く芝居をつけてくれて、なんていい監督に出会えたんだと思ったのですが、出来上がった映画を見てみると僕の顔が写ってなかったんです。監督と僕の信頼関係っていったい?」といって観客の笑いを誘っていた。
堺は「一人一人に感想を聞きたいのは山々ですが、今、劇場の空気が非常に温かくて、やっぱり映画は作り手だけでは完成しないものなんだと思いました。受け手の方が本物の体温で作品を溶かしていただいて一個の作品になるんだなという思いです」と丁寧に感謝の気持ちを表していた。作品については「この映画は非常にジャンル分けしにくい映画です。色々なものが詰まった映画で、それは物語としてしか皆さんにお伝えできないし、映画を見ることでしかそこに参加できない極めて映画らしい映画になっていると思います」とコメントしていた。
『ゴールデンスランバー』は、1月30日より全国東宝系にて公開中。(レポート:澤田英繁)
2010/02/01 16:24