フィッシュストーリー

伊坂幸太郎原作『フィッシュストーリー』降臨!
中村義洋監督と伊藤淳史ら出演者が舞台挨拶

11月18日(火)、有楽町にて『フィッシュストーリー』の完成披露試写会が行われ、中村義洋監督、出演の伊藤淳史、高良健吾、多部未華子、濱田岳、大森南朋が舞台挨拶をした。

この映画、実を言うと僕は最初はこれといって興味を持っていなかったのだが、リリースを読むと森山未來の演じる役名が<正義の味方>と書かれてあって、ただそれだけが気になって見た次第である。そしたらこれが大当たり!

この前、僕はある人に「なぜ映画を見るのですか」と質問された。言われてみればじっくり考えたことがない。そこで僕は「毎年必ず一本くらいは生きてて良かったと思える映画と出会うことがある。そんな名作との出会いが楽しみで僕は映画を見る」と答えた。ちょうどその前日に見た映画がこの『フィッシュストーリー』で、まさに僕が「生きてて良かった」と感じた映画だった。

スリリングなカメラワークと巧みな編集テクニック、感動的なストーリーと愛すべきキャラクターたち、そして気持ちがいいテーマ曲と、深みのある哲学観。見終わった後、すごい映画を見たという満足から、口から大きなため息が出た。見終わった後も余韻が続いて、夢にまで出てきた映画だ。人間のパワーを感じさせる映画だと思う。<正義の味方>に憧れていたあの頃、何かに燃えていたあの頃を思い出させてくれた。

ストーリーは伊坂幸太郎によるもの。1975年に売れないバンドが最後に放った1曲が、2012年に地球滅亡の危機を救う?というもの。あるレコード店の店長(大森南朋)が狂言回しとなって、5つの時代のエピソードが描かれる。それぞれの時代ひとつひとつで一本の映画にしてもいいくらい内容は濃い。エピソードは各種SF、ホラー、アクションなど時代ごとにジャンルが異なり、出演者もまったく違うのだが、実はすべてのエピソードが風が吹けば何とやらみたいに一本の線でつながっていて、ラストでは、バラバラのピースがぴたりと合わさる快感を感じることができる。

たった1曲のロック音楽がいったいどうやって地球滅亡を救うのか、映画を見ている間、その興味は全く尽きない。見ていながら、もしや奇跡でも起こるのではないかと、そんなファンタジックな期待を抱かせてしまう不思議な引力のある作品だ。

圧巻は1975年のエピソード。バンド4人の生き様がかっこよくて泣かせる。今までのイメージとは掛け離れた役柄に挑戦した主演・伊藤淳史の存在感が際立っている。聴けば体が動き出すような素晴らしい楽曲を書き下ろしたのは斉藤和義。4人が演奏している様を長回しで見詰めるカメラワークに本気でしびれた。それはまるで魔法のような空間だった。

舞台挨拶では、伊藤は「台本を頂いた時に、魚の話かと想像していたら全く違った。僕たちの演じるバンドは、2・3ヶ月間ずっと練習をしてひとつになれた。僕たちの音楽がどのように世界を救うのか、楽しんでご覧ください」と挨拶。高良も「自分の時代のところを読んでいたときは、どういう風につながるのかと思ったが、全部を知ってとてもすっきりした。つながることから生まれるものはすごい。この爽快感をぜひ味わっていただきたい」と、巧みなストーリー構成をイチオシ。

1982年のエピソードで主演する濱田は「監督からお話をもらったとき、いろんな役がある中で、気弱な大学生の薬があると聞いて、間違いなく僕のことだと思った。聖子ちゃんカットの情けない大学生と、昔の時代のコラボレーションを楽しんで」と自虐的なコメントで会場を大いに沸かした。

2009年のエピソードで主演する多部は「私の現場は船の上ということで酔い止めを飲みながらがんばった。森山未來さんのアクションシーンは見もの。ラストでとにかくスッキリする映画」と見どころを語った。

2012年のエピソードで主演する大森は「原作をもともと読んでいて、すごいと思っていた作品だけにオファーを頂いた時にすぐに出たいと思った。こういうシチュエーションの映画は見たことがない」と、作品の特異性について強調。中村監督は「原作の世界観をそこねることなく作った。熱さもあるが、静かに深い映画になったと思う。5つの時代を撮ったため、役者同士に接点はないが、彼らは映画を通してつながっている」と語った。

フィッシュストーリー』は、2009年3月、渋谷シネクイント、シネ・リーブル池袋ほかにて、ショウゲートの配給で全国ロードショー。この名作が今から4ヶ月先まで待たなければならないとは! 早くシネマガ読者に見せたくてうずうずしてしまう。(2008/11/24 文・写真:澤田)