佐藤江梨子のMな映画『すべては海になる』
『すべては海になる』が現在公開中だ。テレビディレクターとして数々のテレビ番組を手掛けてきた女流ディレクター山田あかねの初となる劇場公開作品である。自分の小説を自ら脚色・監督した。テレビで慣らしていたこともあってか、自由な作風で作ることが許されたという。「心に刺さる言葉が痛くて、優しい。ちょっとMなラブストーリー」というのがキャッチコピーだが、そのストーリーは、女性だからこそ描ける愛とセックスの話であり、とても第一回監督作とは思えない重厚な筆遣いの人生ドラマになっている。劇場に訪れていたのは女性客が大半であったが、映画の後、若い女子高生が二人で「久しぶりに苦しい映画を見た」とグスグス涙声で語り合っていたのが印象的だった。
主演の佐藤江梨子は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』でも批評家から演技力を高く評価されているが、本作もまた彼女にとって代表作のひとつになったであろう。本屋の店員という役設定が面白い。いつもうまくいかずに傷つくばかりで、出版社のイケメン営業マン(要潤)に誘われて、体だけの関係になっても愛がよくわからない。もう一人の主役はイジメられっこの高校生。演じるのは柳楽優弥。高校生といったら一番セックスに興味のある時期である。彼も傷つきやすく、家族ともうまくいっていない。本屋の店員とは10歳も年が離れているが、少年は店員の優しさに安らぎを覚える。二人の生き方が、心に突き刺さってちょっと痛い。しかし、二人が通じ合うところでは、大きな感動を呼ぶ。
この映画のサトエリは本当に心憎いほどに可愛かった。女性のやるせなさのようなものがスクリーンを通して伝わってきたし、男から見て、とても甘えたくなるような包容力を持ちながら、それと同時に、すぐにでも砕け散ってしまいそうな脆さを感じさせ、包み込んであげたいと思わせた。見事なプロポーションとルックスに、強さと弱さの両方を同時に併せ持つこの存在感。胸が大きいからって、佐藤江梨子を侮るなかれだ。
一方、柳楽はトリュフォー映画の主人公を彷彿とさせる繊細な少年役。筆者も学生の頃年上の綺麗なお姉さんに片思いしていたことを思い出したし、同じ男として柳楽の態度にはすごく共感した。女流監督にしては男の心理がよく描けていると思う。単なるラブ・ストーリーではなく、人生の機微について描かれた奥深いヒューマン・ドラマになっており、見終わった後、非常に余韻が残った。
ちなみに、佐藤江梨子は、先日21日(木)リブロ渋谷で、PRの一環で実際に本屋の店員を体験していた(フォトギャラリー参照)。「私も普通にリブロさんにはよく来てるんですけど、今日はいっぱい人が来てくれて嬉しいです。お姉ちゃんと弟も本屋でバイトしてたので、こうやって働けるのは嬉しいです」と話し、集まったファン一人一人に丁寧に本にカバーをかけて手渡した。前日公式ブログで呼び掛けていたため、50名くらい集まっていたが、いや、こんなに色っぽい店員だったら、そりゃ客も本を買うだろう。しかし監督が横で「こんな可愛い書店員さんでいいんですか」とつぶやくと、サトエリは「そんなことないです。リブロさんの書店員さんはみんな可愛いです」と謙遜していた。柳楽の結婚については「まさか10代の子に先を越されるなんて思ってなかったので。自分もお正月おみくじをひいたら”待ち人来る”って書いてあったので、期待してます」と笑顔でコメントしていた。
1月23日(土)の初日舞台挨拶では、客席から柳楽に「おめでとう」と祝福の声があがった。司会から「誰と映画を見に行きたいですか?」と質問があると柳楽は「嫁です」とのろけ、サトエリは声を大にして「おお!私もエリなんで!」となぜか名前だけで満足していた。そんなサトエリの魅力がたっぷり詰まった『すべては海になる』。ぜひご覧あれ。(レポート・撮影:澤田英繁)
2010/01/25 3:32