仲代達矢のもうろくジジイぶりが素晴らしい『春との旅』
12月7日(月)、有楽町にて、『春との旅』のマスコミ向け完成披露試写会が行われ、主演の仲代達矢(76)、徳永えり(21)、淡島千景(85)、美保純(49)、小林政広監督(55)が登壇した。
小林監督は、本作に関わったスタッフ全員をステージに連れ出すと、「撮影中、私の前に映画の神様が降りてきまして、皆さんを何度も怒鳴ったり蹴飛ばしたりしてすみませんでした。これもすべて私がやったのではなく、良い映画を撮るために映画の神様がやったことですから」と話し、仲間達の功績を讃えていた。9年ぶりの渾身作となった仲代は「私はこの映画に関われたことを誇りに思う」と笑顔で挨拶していた。
『春との旅』は、年老いた老人が孫娘と二人で、最後の住み家を求めて兄弟の家を訪ねて歩くロードムービー。人としておよそ避けられない内容が描かれている。そのほとんどのシーンが長回し、ワンカットで撮られており、登場人物のちょっとした表情の変化も見逃さない。手を震わせながら食事をする仲代のもうろくジジイぶりは素晴らしく、『黄昏』がヘンリー・フォンダの代表作となったように、これは仲代のフィルモグラフィに代表作として記憶されることになるであろう。
本作はキャスティングの時点で映画がもう出来あがっているようなものである。自立したい年頃の女の子「春」を演じる徳永は役の見た目がまるで13歳の少女に見えるが、最後まで出突っ張りで、仲代と互角の演技を見せ、存在感たっぷりである。老人が疎遠の兄弟たちに再会していく形でストーリーは進められていくが、出会う人物の配役も面白い。姉役は淡島千景。義理の妹役は美保純である。この他、田中裕子、香川照之らが出演し、短いシーンながらも深い余韻を残している。(評・写真:澤田英繁)
『春との旅』は、2010年5月より全国ロードショー。
2009/12/09 5:00