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Gran Torino
2008/アメリカ/ワーナー・ブラザース映画/117分
出演:クリント・イーストウッド ビー・ヴァン アーニー・ハー クリストファー・カーレイ ジョン・キャロル・リンチ ブライアン・ヘイリー ブライアン・ハウ ウィリアム・ヒル 
監督:クリント・イーストウッド
http://wwws.warnerbros.co.jp/grantorino/

偏差値:60.2 レビューを書く 解説

これが最後の出演作とは言わせない [90点]

巷ではクリント・イーストウッド最後の出演作と言われている本作であるが、またもや素晴らしい作品を生み出してくれた。

この作品で彼が演じるウォルト・コワルスキーは決していい人間ではない。
朝鮮戦争に従軍したアメリカ至上主義の愛国主義者であり口の悪い人種差別者である。
家族からも疎まれ近所との付き合いもなく1人暮らしをしている偏屈な頑固じじいである。

彼が最も大事にしているのは古きよき時代のアメ車「グラン・トリノ」
元自動車工の彼の手にかかれば古い車が今も現役バリバリで走ることができ、まるでウォルト自身を象徴しているようである。

この愛車を隣に住むラオスからの移民であるモン族の少年タオが悪い仲間に命じられて盗もうとしたことから物語は思わぬ方向へ動いていく。

誰にも心を開かなかったウォルトだが、タオやその姉スー、そしてタオの家族との交流が始まったことによって彼の中の何かが変わっていくのだ。
タオを悪い仲間に引きずり込もうとする奴らの手がタオの家族に及んだ時、ウォルトの熱く静かな戦いが始まる。

物語としては重いテーマであるはずなのだが、ストーリーがよどみなく進むためか偏屈じじいの悪態さえ不思議とコミカルに感じられる。

特にウォルトの亡くなった妻から頼まれ、彼を教会に来させようとする神父に対する悪態は妙に的を射ているところが笑えるばかりか、やがて神父が次第にウォルトに感化されていく姿が楽しくもある。

この映画は死に方を見つけようとするウォルトと生き方を見つけようとするタオの映画であるとともに神父の成長をも描いた作品でもある。

そのためウォルトがある決断をした時、初めて神父のもとを訪れ最初で最後の懺悔をする場面が活きている。
ウォルトの決断をよしとするかどうかはこの作品を観る人によって様々であろう。

ウォルトに老いたハリー・キャラハンのイメージをダブらせていると納得のいかない人も多いかも知れない。
それ以前に映画に出てくるウォルトの孫と同じ世代で鼻やへそにビアスをしている若者にはこの作品自体がうっとおしく感じるかも知れない。
それでも頑固なまでの男の生きざまを観せてくれる本作のクリント・イーストウッドはカッコいいのである。

もうすぐ79歳の御大であるが、これが最後の出演作とは言わせない。
森光子さんよりまだ10歳も若い御大にはアカデミー賞で主演男優賞を受賞するまで現役の俳優としても活躍してもらいたいのだ。

2009/05/12 20:01 (2010/03/28 20:54修正)

kira

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