モンゴメリー・クリフト (今週のスター)

俳優界の反逆児であり、パイオニアだった
 なにかとミステリアスな俳優である。彼は「サンセット大通り」、「波止場」、「エデンの東」などの大作の出演を蹴ってでも、マイナーな作品に出演する性格など、自分の生きたいままに生きるアンチ・ハリウッド的なところがかっこいい。あのマーロン・ブランドでさえも、ここまでひねくれてはいなかったはずだ。「若手実力派」という褒め言葉を背負って立てる役者は、僕の中ではモンゴメリー・クリフトしかいない。昔から舞台でその実力は認められていながら映画の出演をあえて避けてきた彼が、「赤い河」(48)でとうとうその風貌を銀幕に現したとき、ステレオタイプな演技を保守してきたベテランの俳優たちはクリフトのまったく新しい演技を見て、たじたじになった。そのナイーブな瞳は、あのジョン・ウェインを出し抜くほどの奥深さであった。
 クリフトは、喋っているときよりも、じっとしているときの方が、より多くを語る。「女相続人」(49)では、クリフトが正義なのか悪なのか、わからなくなるような複雑な演技を披露し、おおいに観客を戸惑わせた。名優スペンサー・トレイシーが得意としていた沈黙の演技を、より精神的なものに熟成させたもので、この演技法は60年代になってニューシネマの台頭と共に急速に普及していくものなのだが、クリフトはそれを10年以上も早く実現させていた。クリフトは俳優界の反逆児であり、パイオニアだった。演技を高め合うために産まれたアクターズ・スタジオ(映画俳優の共同体)の組員のほとんどの者は、クリフトの影響下にあるといっても過言ではない。「私は告白する」(53)、「地上より永遠に」(53)など、エキセントリックな作品にこそ、その手腕を発揮するため、観客がついていけないこともあり、主演から脇へ回されることが多かった。彼の出演作の中には、公開当時より、むしろ今見た方が面白く、彼が早すぎた天才だったことを裏付けている。
 56年には自動車事故で顔をつぶしてしまい、61年には「ニュールンベルグ裁判」にノーギャラで出演するなど、型破りな活動を続けていた。演技を芸術に高めたクリフトは、3度共演したエリザベス・テーラーとの失恋、男との悪い噂、アル中、全裸の死など、私生活でも謎の多い俳優であった。

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