フレッド・アステア (今週のスター)

(1899~1987)

 踊ってスターになったダンサー

 ミハイル・バリシニコフが「アステアを見たら、どのダンサーだって、ああ別の仕事につくべきだった、と思いますよ」といった。バレー界のスーパースターの彼がそこまで言うのだから、アステアのダンスは信じられないほど凄かったのだろう。アステアのダンスは人の人生を変えてしまうほど魅力溢れるものだったのだろう。

 ミュージカルのためのドキュメンタリー映画「ザッツ・エンタテインメント」はアステアのダンスシーンをダイジェストで見ることが出来て、初心者にはもってこいである。とにかくこれ一本だけ見て欲しい。アステアのダンスは、洗練されており、抜群のセンスを持っている。ダイナミックというよりはオシャレというべき華麗さ。今見ても全く古さを感じさせないファッション感覚がある。カメラは決してクロースアップすることなく、アステアの流れるようなダンスを絶えずフルショットで撮り続ける。

 彼の映画の見せ場はとにかくダンスだった。踊るだけで客が入る。100万ドルのステップってわけだ。彼はダンスという娯楽の範疇を拡大し、新しいスタイルを開発してはことごとく成功を収めた。たとえば映画だけにしか成し得ない演出を利用して、スローモーションのダンスをやってのけたり、何と部屋の天地を無視して壁や天井で踊ったりもした。神業とはまさにこのこと。彼のダンスにはルールなどはなかった。

 「ザッツ・エンタテインメント」だけでは物足りないという方には、「トップ・ハット」(35)と「有頂天時代」(36)をお薦めする。ジンジャー・ロジャースと絶妙のコンビネーションを見せる作品だ。モノクロ映画だが、そんなことおかまいなしにアステアのダンスは素晴らしかった。

 ちなみに、彼と一緒に踊れた幸せな人物は、リタ・ヘイワース、ジュディ・ガーランド、シド・チャリシー、レスリー・キャロン、オードリー・ヘプバーン、そしてジーン・ケリー(男)。アステアのダンスは相手がいるときに、その威力を最大限に発揮する。いやはや驚くべきダンサーである。

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