ビョルン・アンドレセン (今週のスター)

元祖ぼうや
 僕が「美しい」と思った男優は3人いる。ダンディなアラン・ドロン、セクシーなヘルムート・バーガー、そして可愛い坊やビョルン・アンドレセンである。3人ともルキノ・ヴィスコンティの映画に出演しており、同性愛者を公言していた同監督が愛した3人の男優といわれている。僕がこの3人を美しいと思ったのは偶然でも何でもなく、単にヴィスコンティが男の撮り方がうまかったため、観客の我々まで共感しただけの話である。ヴィスコンティは、僕らが綺麗な女性を見て綺麗と思うことと同じように、男をそういう気持ちで描いた。だからヴィスコンティの映画の男達は美しい。おっと、念のため言っとくけど、僕はそっちのケはない。しかしだ。「ベニスに死す」(71)のビョルン・アンドレセン(当時16歳)の美しさときたら、これはただごとではない。ダーク・ボガード扮する初老の作曲家の気持ちに気づき、微笑みかける表情! なぜかセーラー服。あれは、そっちのケがなくても、誰だってキュンとなると思うのだ。下手したら手を触りたくなるかもしれない。それくらい、アンドレセンの魅力は女性と何等変わらないものであった。もしもアンドレセンの役を女優が演じたとしても十分ストーリーは通用しただろうが、アンドレセンが実際の男だからこそ、「ベニスに死す」は名作となった。その年のキネ旬ベストテンで2位から100票以上も突き放して圧勝したのも、アンドレセンの存在抜きには有り得なかった。
 アンドレセンは「ベニスに死す」だけしか出演作がないが、これ1本だけでも永遠に名を残すスターとなった。作品数と人気の反比例ぶりは、映画の歴史ではジェームズ・ディーン(実はジミーは両刀使いだった)とマリア・ファルコネッティ(男装した女優)に次ぐだろう。
 ところで、僕は当時売れていた写真集を図書館でチラッと見たとき、アンドレセンがごく普通のありふれた男の子だったことに失望した記憶がある。やはり、アンドレセンは「ベニスに死す」の中でだけ輝いていた人だった。しかし、だからこそ僕はアンドレセンをこんなにも美しく描き出したヴィスコンティ監督を敬愛するのである。
 ちなみに、僕が「ベニスに死す」を見たのは18歳の頃である。多感な時期にアンドレセンの魔力に触れてしまったわけだが、それ以来僕はこの映画を一度も見ていない。社会人となった今見ると、また見方も違ってくるかもしれない。できれば10年に一度は見たい映画である。

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