ハンフリー・ボガート (今週のスター)

 ギャング映画は、ハリウッド映画のシンボルである。ギャング映画でスターとなったハンフリー・ボガートは、ハリウッド・スターのシンボルだ。その人気の高さは「女優のモンロー、男優のボガート」といわれるほど。死ぬのは早かったが、伝説は永遠だ。とにかくボガートほどアメリカで愛されたスターはいない。

 スーツ、ネクタイ、帽子、コートを着こなし、男臭い役ばかりを演じたボガートは、かっこいい男、ダンディな男の見本だ。
 「ダンディな男はコートの襟を立てるんだ」、「ダンディな男は眉間にシワをよせるんだ」、「ダンディな男はタバコを吸ってじっとしてるんだ」 このような法則が完成したのも、ボガートが影響している。漫画家やイラストレーターも、ダンディな男のキャラクターを創造するとき、ボガートの写真を見ながら作画することがあるのである。
 「勝手にしやがれ」の主人公はボガートに憧れていて、なにかと格好を真似ていたのは有名な話。実は僕もボガートに憧れた男の一人で、ある日ダンディに決めようと、ボガート風のスタイルに挑戦したことがある。真似していると、気持ちがなんだか落ち着いてきたので、アホな僕はデートの日にその格好で劇的に登場。大失敗してしまう。ちと古すぎたか。

 ボガートの絶大な人気のゆえんは「マルタの鷹」(41)と「三つ数えろ」(46)の2作にある。とりあえずボガートを見たければ、この二つを何よりもプッシュする。この2作でボガートが演じた役(私立探偵サム・スペードと私立探偵フィリップ・マーロウ←二人ともアメリカ人が愛してやまない人気キャラクター)こそ、ボガートそのものだからである。この2作はどちらともハードボイルド映画の最高傑作と言われている。ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーというハードボイルド小説の二大作家が書いた作品の両方にボガートが主演しているというのは、大変な功績である。彼のアクションとセリフのかっこよさに酔いしれてもらいたい。

 そのハードボイルドなスタイルが評判になり、ボガートは観客のリクエストにこたえるかのごとく、その後もハードボイルドな演技を見せてくれた。彼の演じてきた役は「映画の世界に浸らせてくれる役」ばかり。ドラマならではの「作られたセリフ」がたまらなくかっこいい。「カサブランカ」(42)が大成功したのは、I・バーグマンの貢献もあるかもしれないが、やはり何と言ってもボガートがかっこよかったからではないだろうか。男は「ボガートのようになりたい」、女は「ボガートに愛されたい」と、映画を思う存分に楽しんだ。今では「カサブランカ」は「もっともハリウッドらしい映画」と言われ、映画史上のベストワンとの声も多い。

 とりわけジョン・ヒューストン監督作品に傑作が多い。ドラマチックな人間喜劇「黄金」(48)、ハードボイルドなサスペンス「キー・ラーゴ」(48)、お茶目なアドベンチャー映画「アフリカの女王」(51)は僕の大のお気に入り。ワイルダーの恋愛コメディ「麗しのサブリナ」(54)もいい。久しぶりに悪役(やられ役)に回った「必死の逃亡者」(55)は犯罪ドラマのマイ・ベスト1です。

 「脱出」(45)ではローレン・バコールとナイスなコンビネーションを見せる。二人はまさしく世界最高のカップルであった。

オリジナルページを表示する