スペンサー・トレイシー (今週のスター)

(1900~1967)

トレイシーは俳優が尊敬する俳優だった

 数年前、ある番組の企画で、ハリウッドの映画関係者たちに「あなたの尊敬する俳優は誰ですか?」という質問をぶつけてみたところ、ほとんどの人が「スペンサー・トレイシー」と答えた。あのスピルバーグもスペンサー・トレイシーと答えた。トレイシーが亡くなって30年以上経つが、なぜゆえ現代の映画人たちもトレイシーの名前を出すのか・・・。「激怒」(36)、「桑港」(36)、「少年の町」(38)、「北西への道」(40)、「アダム氏とマダム」(49)、「花嫁の父」(50)、「日本人の勲章」(55)、「最後の歓呼」(58)、その他、トレイシーの作品は映画通でなければわからないタイトルばかりだが、それなのにトレイシーがここまで評価されているのだから、トレイシーがいかに偉大な俳優だったか。作品は歴史に残らずとも、トレイシーの俳優魂だけは現代の映画人にも語り継がれたということか。

 僕からしてみたら、トレイシーなんて、どの映画を見ても同じ顔、同じ髪型のような気がしていたのだけれど、俳優たちからしてみれば、トレイシーの演技はかなり理想的なのらしい。どんな場面でも、その場面を初めてみるかのように演技するのがうまく、それは緻密でいて、とても自然だったのだという。自分自身も天才役者だと自覚していて、そのため会社ではよく上の人たちと喧嘩になることもあったそうだ。絶対の一人演技「老人と海」(58)は、トレイシーだからこそ成し得たのである。

 アカデミー賞の演技部門ノミネート回数では無論ハリウッド最多。二年連続主演男優賞受賞という快挙もついこの前トム・ハンクスがタイ記録を出すまで、ずっと守り続けていた。トレイシーはハリウッド最高の隠れた名優なのである。

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