ジャン・ギャバン (今週のスター)

(1904~1976)

 ギャングといえばギャバンだ

 ジャン・ギャバンの人気は計り知れない。フランス映画一筋の役者だったが、出る映画のほとんどはことごとく大成功。日本では最も尊敬されている映画俳優である。

 僕がこの人を知ったのは、僕の映画熱を燃焼させる最大の要因となった一冊「大アンケートによる洋画ベスト150」(文藝春秋・刊)を見てから。この本の人気投票では、ジャン・ギャバンが一位である。ジャン・ギャバンの映画はそこら辺のビデオ屋ではまず見つからないので、僕は何も見たことがなかったが、名前だけは知っていた。ジャン・ギャバンなんて、名前からして何か威厳と貫禄を感じさせたもので、僕はこの俳優の作品が気になって仕方なかった。
 福岡の天神地下街で、素晴らしいビデオ屋を見つけた。UXプラザというビデオ屋で、そこは名作映画の宝庫だった。今まで見たことのない気になるサイレント映画やヨーロッパ映画の名作がわんさか置いてあり、「洋画ベスト150」に載っている作品群はほとんど網羅してあった。その店に最初に来た日は、もう興奮醒めやらなかった。

 僕はそこで最初に「大いなる幻影」(37)を借り、寄り道せずに真っ先に帰り、すぐさま鑑賞した。・・・びっくりした。この映画は僕の映画熱をさらに燃え上がらせた。この日の興奮が僕が映画マニアの道へと驀進する起爆剤になったといっても過言ではない。その日から僕はジャン・ルノワール監督および、ジャン・ギャバンのファンになっていた。

 その後、「地の果てを行く」(35)、「どん底」(36)、「我等の仲間」(36)、「望郷」(37)、「霧の波止場」(38)、「陽は昇る」(39)、「フレンチ・カンカン」(55)、「ヘッドライト」(55)などを見た。何とスタイリッシュな役者だろうか。きりっとしているわけでもないのに、ちょっと脱力感のある役でもかっこいい。何か彼にはノスタルジックな味があるようだ。特にジュリアン・デュビビエ映画のギャバンは良かった。僕はギャバンの口元が妙に気に入ってしまった。

 老けてからは何しろ渋い。「現金に手を出すな」(54)、「地下室のメロディー」(63)、「シシリアン」(69)を見たが、ギャバンはなかなかギャング映画向きの顔立ちだなあと思った。実際のギャングとはだいぶ違うのだろうが、ギャングといえばギャバンという風に、彼の作品は庶民にギャングのイメージを叩き込ませたのである。

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