ジャック・ニコルソン (今週のスター)

 ニコルソンはニューシネマ、B級映画出身の俳優であり、黄金時代のハリウッドスターとは対極的なイメージを持つ。誠実で正義感が強い青年とは違い、無気力で自分勝手な青年のイメージである。悪役や怪物役が多いので、しいて言えばジェームズ・キャグニーの系列か。もちろんキャグニーよりも芸幅は広く、うわ手であるが。

 僕が学生の頃の話だ。僕は学校の図書室にあったギネスブックに興味を持ち、「映画」のページを読んでみた。高収入俳優の項目にはジャック・ニコルソンと書かれてあった。当時は「バットマン」(89)のジョーカー役をやっていたが、あんなのでも金がもらえるのかと、必要以上に驚いた覚えがある。
  僕が初めて見たニコルソンの映画は「バットマン」であった。馬鹿な僕は、てっきりあれが素顔かと思っていた。同作は、敵キャラが主人公よりも目立ってしまった映画として、僕の記憶に深く刻み込まれることになる。

 ニコルソンは「映画にこだわっている俳優」らしい。10年ほど前に某テレビ番組で、ニコルソンのことを「出演は映画のみ。テレビには決して出ない人」という風に紹介していたことがあった。
 映画俳優は、あくまで銀幕のスターであって、チープなテレビドラマには出ない、ということなのか? その番組を見た僕は、ニコルソンの威風堂々とした椅子の腰かけ方を見て、子供心に彼のことがどでかい人物に思えたものである。その頃見た映画は「ア・フュー・グッドメン」(92)。主役ではなかったが、その表情の落ち着きぶりには偉大さを感じずにはいられなかった。

 映画を見始めてからというもの、僕はもうニコルソンの虜に。「カッコーの巣の上で」(75)と「ファイブ・イージー・ピーセス」(70)は決定的だった。テレビ画面から彼の体温を感じてしまうほど強烈なインパクトがあった。「これが演技だ」と思った。
  「シャイニング」(80)では狂った目つきに役者魂を感じた。「チャイナタウン」(74)では往年のハリウッドスターぽいこともできるんだと嬉しくなった。「愛の狩人」(71)ではニコルソンが付き合った女のことについて語る姿が忘れられない。とにかくニコルソンの役はどれも彼自身にピッタリである。「ウルフ」(94)の狼男の役などは適任だと思った。

 まだ記憶に新しい「恋愛小説家」(97)は僕のイチオシ。一見ニコルソンらしくないが、実はすごく彼らしい役。クスクス笑いが止まらない傑作である。これを見たときは、ニコルソンこそナンバー1の名役者、役者の中の役者だと確信したものである。

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