キム・ノバク (今週のスター)

(1933~)

 社長に拾われた可愛い子猫

 海外の映画の本をいくら見ても彼女の名前が全然載っていないことに僕は驚いた。可哀相に。忘れられてしまったのだろうか。映画人のWho's Whoにも載ってないとは何事だ?? でも日本の本を見ると、必ずでかでかと特集してある。ちなみに上のノバクの写真は、映画音楽大全集という日本のレコードについていた写真だ。どうやら、日本人はキム・ノバクを愛しているみたいだね。実はノバクは一度引退しそうになったんだけど、熱心な日本の映画ファンに支えられて、やっぱり女優を続けることにしたんだって。そんな彼女は日本のゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭の審査院長をつとめたこともある。

 彼女の映画人生は、調べてみるとかなり波瀾万丈だった。彼女の映画との出会いは、コロンビアの社長がきっかけである。21歳の頃にハリー・コーンからスタジオに誘われた。猫みたいな顔してるからキム(子猫)という芸名をもらい、「殺人者はバッヂをつけていた」(54)に出演。彼女は「気が付けばスターになっていた」という。スター主義だったコーンは彼女をリタ・ヘイワースの後釜にすえようと、彼女の歯を矯正し、ダイエットさせ、過酷なプログラムを強要した。そして翌年「ピクニック」(55)と「黄金の腕」(55)に出演させ、22歳でありながらも大人の魅力を感じさせる女優として、大成功を収める。体がムチムチだったので、ヴァンプになることをおそれたコーンは、「愛情物語」(56)で優しい主婦の役をやらせたり、「媚薬」(58)というファンタジックな映画もやらせた。「媚薬」では彼女の猫のような目が一役買っているが、実はノバクは猫がニガテで、猫を抱くのに手こずったらしい。

 彼女の別名は「ミステリアス・キム」。ミステリアスという形容詞はガルボ以来の褒め言葉である。こう呼ばれるようになったのは、「めまい」(58)のお陰。ヒッチコックが彼女の隠された魅力を引き出した。緑色のスーツを着て登場し、怪しげな魅力で観客をぐいぐいと引き込む美女の役であった。この時彼女は25歳である。とても25歳とは思えない美しさだった。

 ただしここから彼女はセックス・シンボルのイメージを拭うことができなくなり、そういうタイプのヒロインしか役が回ってこなくなる。巨匠ワイルダーの作品「ねえ!キスしてよ」(64)の役をもらったかと思えば、内容はとても良くできていたのではあるが、あからさまなセックス映画であったことに本人は失望した。

 それからどれくらい経つだろう。まるで冴えない映画人生。80年、47歳になったノバクが久しぶりにメジャーな作品に出た。オールスターキャストの「クリスタル殺人事件」(80)である。47歳とは思えない美しさで現れた。若い頃も素敵だったが、この作品のノバクはもっと美しかった。ここから整形手術疑惑がささやかれてしまったほどだ。

 最近の映画では彼女の姿は滅多に見られなくなってしまったが、この前、ユニバーサル・スタジオで彼女がアトラクションのビデオ案内をやっているのを見て、僕は嬉しくなった。

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