サヨナラ (名作一本)

大和撫子は世界一!
 日本について描かれたハリウッド映画としては、『八月十五夜の茶屋』と『サヨナラ』の二本が、最も良心的といえるだろう。僕はマーロン・ブランドが大好きだが、彼の役でベスト1をあげるなら、『サヨナラ』、ベスト2は『八月十五夜の茶屋』だと思う。異論はあるだろうが、この2本の両方にマーロン・ブランドが出演し、コミカルな演技を見せているのは、日本人にとって、とても嬉しいことだと思う。僕にとって良い映画とは、「見ていて嬉しくなる映画」のことだが、『サヨナラ』を見ていると本当に日本人として嬉しくなってくるのである。

 この物語は、アメリカ人兵士と、日本人女性の禁断の恋を描いたものだ。時代設定は、近年の秀作『SAYURI』とも共通している。『SAYURI』同様、『サヨナラ』もスケールの大きい大河ドラマ仕立てになっている。

 監督は『ピクニック』『バス停留所』『南太平洋』など傑作を多数有するジュシュア・ローガンだが、この作品からも彼らしいユーモアがいたるところに見られる。マーロン・ブランドはとぼけた役が本当にうまい。和室に入るとき頭を何度もぶつけるシーンが可愛い。最初は「あんな目が細くてつり上がった人のどこがいいんだ」と、日本女性のことをバカにしていたのに、日本女性に恋してからは日本女性を世界一素晴らしい女性だと讃えるようになる。この変わりっぷりが面白い。「お前は七夕も知らないのか。恋人の日だぞ。日本人なら誰でも知ってるんだぞ」とうんちくをたれるときのブランドの顔が無邪気で良い。

 ブランドは、この映画の中で見事に歌劇団の花形スターを口説き落とすわけだが、その口説き方が面白い。最初は脈なしなのだが、それでも、毎日毎日しつこく女の所に通い続ける。女は振り向いてくれない。そこである日、女の所に行くのを突然やめる。すると女はいつもの男はどこにいったのだろうと逆に気になってくる。こうして二人は結ばれる。これが高嶺の花を口説く方法だ。

 この映画、本当に日本をよく描いている。日本こそ世界一の国といわんばかりに、愛情たっぷりに描いている。歌舞伎、能、歌劇など、日本文化も多数紹介しており、<通りゃんせ>など、日本のわらべ歌も劇中のいたるところで歌われている。出演者も本当の日本人を起用しているので、アメリカ映画にありがちなおかしな文化描写はほとんどない。

 名演は梅木ミヨシである。この人、最初は全然美人に見えない。ところが、映画を見ていると、ただお茶を注ぐだけでも、彼女がしだいにとても可愛らしい女の人に見えてくるのである。夫に従順で、とても幸せそうである。これがこの映画の魅力。彼女のセリフは思い切りネイティブの日本語。出番は少ないけれど、彼女は日本人として初めてアカデミー賞を受賞した。なお、この作品は作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞、美術賞、撮影賞、音響賞など、多数の部門にノミネートされ、その年最も話題になった映画であった(ちなみに作品賞は『戦場にかける橋』に取られている)。

 うまいのはタイトルである。『サヨナラ』。僕はこの言葉を使ったことがない。「サヨナラ」といったら、もう二度と会わないと言ってるような気がするからだ。ところがこの「サヨナラ」の言葉が味噌になっていて、最後には予想を覆す展開が用意されている。なんとも巧妙な話術だ。こうして「SAYONARA」は有名な日本語になった。
 



▲歌舞伎
この映画の中では「男だけの演劇」と紹介されている。女形を演じるのは「スパイキッズ」のリカルド・モンタルバン!


▲歌劇
この映画の中では「女だけの演劇」と紹介されている。


▲能


▲人形劇
このシーンで「心中」という日本語が使われるが、これは重要な伏線となる。


1957年製作・アメリカ
製作:ウィリアム・ゲッツ
監督:ジョシュア・ローガン
原作:ジェームズ・A・ミッチェナー
出演:マーロン・ブランド、 高美以子、レッド・バトンズ、 梅木ミヨシ、ジェームズ・ガーナー、パトリシア・オーエンズ

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