南極物語 (名作一本)

バブル到来前の真の超大作
 83年「タロとジロ」という流行語を発し、日本で社会現象になったこの名作を、アメリカがリメイク! リメイク版の上映日と同日にオリジナル版のテレビ放送が実現し、2006年春は「南極物語」再ブーム到来の季節となりそうです。地上波で20年以上も昔の映画を放送するなんて嬉しいですが、それ以上にアメリカでもこの日本映画がきちんと評価されていたことが嬉しいですね。「呪怨」「Shall we ダンス?」以上の驚きです。
 せん越ながら、管理人の思い出話を書かせてもらいます。「南極物語」は僕にとっては大変思い出深い映画でありまして、実はこれが僕が生まれて初めて見た映画なんです。僕は映画館ではなくテレビで見たんですけど(ちなみに僕が映画館で初めて見た映画は「ラッコ物語」です)、僕の記憶では前編・後編2週に分けて放送していたかと。テレビにPRとして本物のタロとジロも特別出演したように記憶しています。僕は7歳前後でしたが、何しろ生まれて初めての映画なので、その時の状況をよく覚えています。どの部屋で見たのか、どのテレビで見たのか、どこに座って見たのか、すべて昨日のことのように覚えています。僕の母親はアイロンがけをしながら見ていました。一番脳裏に焼き付いたシーンはオーロラのシーンですね。おそらくこれを超えるオーロラの映像は他にはないでしょう。僕はこのオーロラとテーマ曲がいつまでも忘れられませんでした。生まれて初めて実家で飼った犬に僕が「リキ」と名付けたのも「南極物語」の影響からでした。
 この幼い頃の記憶を美化しすぎていたせいか、10年前、ビデオで冷静にもう一度見たときには、アラばかりに目が行ってしまって「こんな映画だったっけ?」とガッカリしたものでした。カメラはブレてばかりでうまく撮れてないし、安っぽい映画だと決めつけてしまったんですね。
 そして先日、テレビで3度目の「南極物語」を見たのですが、今度は感動して泣いてしまいました。純粋にストーリーに注目してみると良い映画なんですね。人間と犬の交流と、犬のサバイバルの二本柱。アザラシを襲うシーンなど結構怖いシーンもあって、ただの動物映画にはないシビアさがあって、なかなか見応えのある映画だと再確認しました。必死で生き抜こうとする犬の様から、まるで芸術映画的な格調美も見いだせます。
 せっかくの大作なので、カメラのレベルが低いのが残念でなりません。おそらく撮影機材に製作費を注ぎ込めなかったのではないかと思いますが、せっかく金があったのだからもったいない気もします。というのも、この映画は当時にしては社運をかけた商業映画の一大プロジェクトだったのではないかと思うほどに惜しげなく金が遣われているからです。極地をロケする前代未聞の企画といい、そこかしこに映画会社の煮えたぎる野心がうかがえます。テレビ局による映画作品という意味でも最初に記憶される映画かもしれません。「キタキツネ物語」が当時驚異的な興行成績を収めたことで、動物映画が何よりも受けると思われていた時代に、この天才監督を起用し、あえて上映時間を家族向け映画?にしては長い2時間半にして大作らしさを強調して、さらに音楽監督には「炎のランナー」でアカデミー賞を取ったばかりという売れっ子ロック・ミュージシャンのヴァンゲリスさんを海外から招き入れました。そこに高倉健さん、渡瀬恒彦さん、夏目雅子さんという申し分のない豪華なキャスティング。ああ、今は亡き夏目雅子さんの京都弁には胸キュンですよね。この年になって、僕はようやく高倉健という名優の良さがわかるようになりました。今では一番好きな日本の俳優の一人ですよ。ラストシーンで「オー!」という時の健さんの目をみてじーんときちゃいました。こういうセリフが少なくて心のこもった演技ができるのは健さんだけですね。
 さらに、成功を確実なものにするために当時売り出し中だった荻野目慶子さんを起用しています。公開時のチラシが荻野目慶子さんの顔のアップ写真であることからも、動物映画というよりはアイドル映画として売ろうという魂胆もあったのでしょう。この年、杉田かおるさんは「男はつらいよ/口笛を吹く寅次郎」、薬師丸ひろ子さんは「里見八犬伝」に出演しており、ちょうど少女アイドル絶頂期という時期でした。今これを改めて見ると、80年代初頭の日本の商業映画の在り方が手に取るようにわかって、時代を感じさせます。
 





「南極物語」DVD

1983年製作・日本
フジテレビジョン/学習研究社/蔵原プロ

監督:蔵原惟繕
音楽:ヴァンゲリス

出演:
高倉健
渡瀬恒彦
岡田英次
夏目雅子
荻野目慶子

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