忘れじの面影 (名作一本)

観賞者の恋愛観を問われる映画
先日、映画館で「エターナル・サンシャイン」を見た。問題作だと思う。シュールリアリスティックな映像感覚にして、見終わった後、まざまざと恋について考えさせられる映画だからだ。観賞者にそうやって深く考え込ませた時点で、その映画は成功といえる。
ここで取り上げるマックス・オフュルス監督の「忘れじの面影」も観賞者の恋愛観を問う映画だ。これは女性の立場から描いた究極の片想い映画である。とはいっても、一度は肉体関係を持ち、子供まで作ってしまうからして、遠くから意中の男をそっと見守る類の純愛物語ではない。この論点は、男が女のことを忘れてしまうことにある。
問題の男は、名うてのプレイボーイで、色々な女と一晩だけの関係を楽しんできた相当なワルである。主人公ジョーン・フォンテインは彼のことを子供の頃から好きだった。そして彼女も大人になったとき、他の女と同様に彼と一夜を共にする。しかし翌日、男は彼女を置いてどこかへ消えていた。それでもフォンテインはずっと彼のことを思い続けていたが、10年後、2人はついに再会する。ここが悲劇で、男の方はフォンテインのことを全く覚えていない。しかも、10年前とまったく同じ口説き文句でフォンテインを落としてくるのである。なんてひでぇ野郎だと思うのだが、それと同時にずっとこんな男のことだけを想い続けていたフォンテインの方にも苛立ちを感じてしまう。どうしょうもないこの悲劇を、ウィーンの情緒溢れる下町を背景に、マックス・オフュルス監督は黒を基調としたフィルムノワールばりの映像で描きあげた。
驚くのは子役から落ち着いた大人役まで演じたジョーン・フォンテインの演技力だ。とくに子役時代の恋心に揺れ動くウブな表情が可愛らしい。恐らくフォンテインの生涯最良といえる演技である。


▲二人とも、どうしょうもないバカに見えてくる。

1948年製作 アメリカ
監督:マックス・オフュルス
出演:ジョーン・フォンテイン、ルイ・ジュールダン

オリジナルページを表示する