極北の怪異 (名作一本)

 北極圏に住むイヌイット族のナヌークという男の日常をスケッチした作品。
 活動写真が生まれたてのころ、そのほとんどの作品がドキュメンタリーだったため、「極北の怪異」をドキュメンタリー映画の第1作とすることには少々抵抗があるかもしれない。しかし、それでもこれを「ドキュメンタリー」というジャンルを確立させた作品として異議を唱えるものがいないのは、ひとえにこの映画で描かれた内容がユニークだったからだろう。

 カヌーから降りるナヌーク。かと思うと、その小さなカヌーの中からナヌークの家族がぞろぞろ出てくるではないか。このオープニング・シーンから観客をびっくりさせる。
 アザラシを捕まえるや、その場で皮をはぎ、生のまま食べる。極寒の地で細長いナイフをぺろぺろなめ(なめることで切れ味がよくなるらしい)、そのナイフ一本で氷の家イグルーをちょちょいと建てる。イヌイットの生活ぶりは、あまりにも原始的であり、我々の目からしてみれば彼らの行動のすべてが思いがけない驚きに満ちている。この驚きこそ、ドキュメンタリーに最も必要なものではないだろうか。これを見て、ドキュメンタリーの本質とは何かを、じっくり学びたいところだ。
 


これもオススメ!
「グレート・ノース 北極圏に生きる」(2001年カナダ映画)
北極圏のトナカイの生態を追ったドキュメンタリー映画。アイマックス大画面のカラー映像で見る自然の雄大な景観が素晴らしい。見所は、ナヌークの孫が登場し、イヌイットの近代化した生活ぶりが描かれていること。「極北の怪異」の続編として見るのも一興。犬ぞりではなく雪上車を使っているところなど、両方併せて見ると時代の変遷を観察できて面白い。

 

▲アザラシ狩りの様子。小さな穴の前で、ただじっと忍耐強くアザラシが顔を出すのを待ち続ける。アザラシ一頭捕まえると一週間分の食料・衣類・暖房がまかなえるため、ナヌークは捕まえるまで決して諦めなかったという。


1922年製作 アメリカ
制作・監督・脚本・撮影:
ロバート・J・フラハティ
出演:
ナヌーク

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