意志の勝利 (名作一本)

ドキュメンタリー映画の最高傑作といわれながら、日本では42年に公開されたっきりで、今になっても依然ソフト化の予定はない。監督は世界で最も有名な女流監督レニ・リーフェンシュタール。ついこの間は100歳を超えても新作映画を発表。死ぬまで創作活動を続けたアーティストである。同監督の「オリンピア(民族の祭典・美の祭典)」はとっくにソフト化されているというのに、どうしてか「意志の勝利」だけはソフト化されない。もしもその理由が、この映画がナチスを讃えた映画だからというのならば、今すぐソフト化を検討すべきである。これほどヒトラーをまじめに観察できる作品はなく、第三者の目から見る歴史的アーカイブとしても十分に価値があるからだ。

 今の若者たちはヒトラーについて漠然としか知らない。たいていは悪いイメージだろう。この映画はナチス当方が自主制作した政治映画だが、ナチス側から見たヒトラーの人間像は我々の抱くイメージとは当然違うわけで、威厳あるリーダーという感じに描かれている。外側からではなく、内側からナチスを観察できる映画はこれくらいしかなく、フランク・キャプラが作った戦争ドキュメンタリー「われはなぜ戦う」に描かれているドイツとはまるっきり裏返しになっているところが興味深い。

 これを語るなら、とにかくレニの美的センスを褒めちぎりたい。「オリンピア」にしてもそうだが、レニは人間の顔とか身体の捉え方にかけては他に追随を許さない。兵隊たちが綺麗に列を成して行進するときの映像のなんたる壮観。また、演説をする男達の顔の深い陰影。モノクロームならではのアーティスティックな映像。この際、政治がどうのこうのというのは抜きにして、純粋に映像を楽しもうではないか。

 ヒトラーの映像効果はすごい。手の動きの力強さ。白い歯をむき出して大声で叫ぶドイツ語の迫力。凄まじいパフォーマンスを濃厚なコントラストで表現している。他のニュース・フィルムでみるヒトラーとは異なり、ロー・アングルによるアップの映像は、いかにも「映画的」。これもレニのカメラワークの賜物。あきらかに演出による、ごまかしとみえるシーンもあるが、レニはカメラがありのままを撮るよりも、演出した方が結果的には現実に近くなることに気づいていたのである。感性をもって忠実を描くその手法はドキュメンタリー最大の秘訣である。

 政治的束縛の中で、アイデンティティを捨てず、芸術作品に仕上げたレニの作家魂は、まさに我々に映画を作ることの喜びを教えてくれる。
 



▲華やかな行進シーン。2時間の上映時間も短く感じるほど力強い映像である。


「Triumph of the Will」
DVDのご案内
※輸入盤の紹介となります。オール・リージョン対応ですので、日本のDVDプレーヤーでも普通に再生ができます。ドイツ語がわからなくても、映像を見ているだけで面白いです。

1934年製作 ドイツ
監督:レニ・リーフェンシュタール

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