真夏の夜の夢 (名作一本)

 チェコのアニメーション映画は、数年前から一部の映画マニアの間で、ちょっとした話題を巻き起こしている。関連書もいくつか出版され、チェコ・アニメのセルビデオを買うことが、映画マニアにとって、ある種のトレンドになっていたこともあった。
 ここで紹介する「真夏の夜の夢」は、人形を使ったストップ・モーション・アニメーションで、いわばチェコ・アニメの金字塔を打ち立てた作品である。監督のイジー・トルンカは、その道の第一人者で、アメリカのアニメ王ディズニー、フランスのグリモーともしばしば比較される名手である。彼はいろいろなジャンルの人形劇を手がけたが、「真夏の夜の夢」は美しさにおいては彼のフィルモグラフィの中でも群を抜いている。
 キャラクターたちは喋らない。顔の表情も変えない。ただ、パントマイムだけで感情を詩的に表現していく。人形に描きこまれた淡い瞳は、遠くを見ているようで、近くを見ているようでもある。それはまるで魂を感じさせる。
 シネスコのフレームをおもちゃ箱のステージのごとく扱い、画面全体で沢山の登場人物たちの生活感をハイアングルで一斉に活写する愛くるしさ。また、時々この小さな人形たちにマクロレンズで接写すると、等身大のセットでは表現できなかった、もの静かで柔らかい魔法のような空間がそこに広がっていく。自分が小さくなったようで、幻想的なセットは鑑賞者を優しく包み込んでいく。それは、母に抱かれているような温もり。
 誰にも汚されたくないこのオルゴールのようなメルヘン物語は、清らかな心で観てもらいたい。
 

▲鑑賞者をおとぎの世界へといざなう幻想的な人形劇

1959年製作 チェコスロバキア
監督・脚本:イジー・トルンカ
原作:ウィリアム・シェイクスピア

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