サンライズ (名作一本)

1927年フォックス映画/F・W・ムルナウ監督

 とある田舎町に暮らす一組の夫婦。夫は浮気をして愛人を抱き、愛人は妻を殺すようにそそのかす。夫は本当に妻を殺しかかるが、途中で妻に感づかれ、妻は夫の形相を見て恐れおののく。妻の表情をみた夫は自分の過ちに気がつき、我に返って泣いて謝罪する。夫と妻の仲は以前にも増して深まる。

 20年代において、芸術派といえる映画作家はというと、構成を重視したグリフィス・シュトロハイムらアメリカの勢力、モンタージュを提唱したプドフキン・エイゼンシュタインらソ連の勢力、アバンギャルドな作風のクレール・ブニュエルらフランスの勢力、見せ方にこだわり続けたチャップリン・ヒッチコックらイギリスの勢力、そして表現主義派といわれるラング・ムルナウらドイツの勢力があった。彼らはサイレント映画界でもとりわけ特徴的なスタイルを持った映画作家たちであり、私は彼ら10人のことを特別に「サイレント・テン」と呼んで神格化している。彼らの中にはアメリカに渡ってアメリカで成功した者もいる。サイレント・テンの中でもあまり知られていない監督がF・W・ムルナウである。しかし、彼がアメリカで製作した「サンライズ」は、世界の批評家・監督たちが選出した映画史上のベストテンにランクインされた。

 一言で言えば恋愛映画だが、一言では片づけられない美しさがあるドラマである。二重写しや、スモークなど、映画ならではのロマンチックな技巧を使って「構図で見せるドラマ」となっている。これもドイツで表現主義的な見せ方にこだわりつづけたムルナウの癖が、巧い具合にハリウッド製の甘い恋愛映画にマッチした。余計なサブ・ストーリーは省き、二人の仲だけをじっと見つめ続けるカメラの雰囲気。「愛」というものを映像にするとすれば、これはいい見本かもしれない。

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