民衆の敵 (名作一本)

1931年ワーナーブラザーズ映画
監督:ウィリアム・ウェルマン
脚本:ハーヴェイ・ショー
撮影:デフ・ジェニングス

出演:
ジェームズ・キャグニー、
ジーン・ハーロー

犯罪映画の時代にできたバイブル
 30年代アメリカでは犯罪を題材にしたアクション映画に爆発的な人気があり、「犯罪王リコ」(30年)、「民衆の敵」(31年)、「暗黒街の顔役」(32年)という三大古典も生まれました。これらを手がけたM・ルロイ、W・ウェルマン、H・ホークスはみなハリウッドを代表する大監督になりました。

 「民衆の敵」は、サディスティックな描写、キャラクターの強烈さの二点においてすこぶる付きの傑作です。エピソードをたくさんつなげる語り方で、主人公の残忍な行動が次々と描かれていきます。殺人のシーンを直接見せず、間接的に見せるところに戦慄があります。この当時は映像よりも、描き方と役者の演技に重点をおいていた感じでした。主演のジェームズ・キャグニーは、荒肝をひしぐどぎつさがあり、命乞いする者を容赦なく殺す残忍な顔と、どことなく哀愁をおびた顔の二面性を合わせ持っており、その演技は圧巻です。女を殴る演技など、当時は強烈なインパクトがありました。当時の犯罪映画は主人公がラストでくたばるのが鉄則でしたが、「民衆の敵」のキャグニーのくたばり方はただごとじゃないです。痛々しく叫びながらも執念でなんとか歩こうとするのですが、激しい雨が顔面をたたきつけ、やがて力つき、倒れます。
 ジーン・ハーローも大きくて、特徴的です。新しい言葉ですが、「エキセントリック」という言葉が似合います。キャグニーとのラブ・シーンは、ハーローが上という点に注目してください。

 監督のウィリアム・ウェルマンは、今では知る人ぞ知る存在になってしまいましたが、本当は戦前最も偉大な監督だったのです。今ではグリフィスの作品だけが残り、ウェルマンの作品はほとんど葬り去られてしまいました。でも確かに、双葉十三郎先生の「ぼくの採点表」を見てみると、ウィリアム・ウェルマンの作品のほとんどが高得点を獲得しているのです。彼の影響力の大きさは「民衆の敵」一本だけ見ても相当なものです。あまりにもショッキングなラストシーンが脳裏からいつまでも離れません。彼の作品は、もっともっと今の世代の映画作家たちに見てもらうべきなのです。

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