捜索者 (名作一本)

1956年ワーナーブラザーズ映画
製作:
メリアン・C・クーパー
パトリック・フォード
監督:ジョン・フォード
脚本:F・S・ヌージェント
撮影:ウィンストン・C・ホック
音楽:マックス・スタイナー

出演:
ジョン・ウェイン、
ジェフリー・ハンター、
ベラ・マイルズ、
ナタリー・ウッド、
ウォード・ボンド

過渡期ならではの傑作西部劇
 ジョン・ウェインは「捜索者」のイーサン役が自身の最高傑作だと言っていました。息子にイーサンという名前をつけるぐらいですから、本当なのでしょう。監督のジョン・フォードも「捜索者」が一番気に入っていたようです。アメリカの批評家たちも「捜索者」が西部劇の最高傑作だと書いています。なぜこの映画はここまで高く評価されているのでしょう? 僕はその理由について考えてみました。

 ジョン・フォードの西部劇は、大きく二種類に分けることができます。前期西部劇と、後期西部劇です。前期と後期では、スタイルが著しく異なります。しかし「捜索者」は、過渡期に作られた作品で、前期にも後期にも属さない作品です。天才は、過渡期にとんでもない傑作を作ってしまうものです。「捜索者」は、あらゆる意味において、他のフォード作品とは違います。

 まず特筆すべきなのが、フォードがワイドスクリーンとカラーフィルムを意識したことです。「捜索者」の前にも何作かでカラー撮影に挑戦していますが、本格的に西部の大自然をカラーで見せてくれたのは「捜索者」が初めてです。それはまさに大自然を見せるためのワイド映像・カラー映像でした。オープニング、狭くて暗い部屋から外に出ると、そこには美しい大自然が広がっていく、というパノラマ的な映像が感動でした。西部劇でありながら、積もった雪の上を歩くシーンなどがあるのも新鮮です。これがカラーならではの面白さなのです。

 「捜索者」のイーサン役は、従来のウェイン像を打破するほど、残忍な性格です。インディアンに家族を殺され、復讐の鬼と化します。復讐のためだけに、何年も何年もインディアンを追い続けます。映画では説明もなしに時が経っていき、イーサンの憎悪だけを描くことに終始しています(もちろん遊びの場面も散りばめていますが)。アメリカを象徴する俳優だった彼が、今度打って変わって、黒帽の悪役スタイルになって、無防備なインディアンを背中から撃ち殺したり、頭の皮を剥ぎ取ったりするのです。目つきからギラギラしていて、まるで今までのウェインとは別人です。もしかしたら、ふつうのウェインを知る人でなければ、この映画の真の面白さは感受できないかもしれません。それだけこの映画はウェインの存在が魅力なのです。

 「捜索者」はフォード、ウェインにとって新しい挑戦、スタイルチェンジのきっかけとなった作品です。「捜索者」が評価されているところはやはりそこでしょう。あながち日本では高く評価されたとは言えませんが、同作で見せたフォードとウェインのこのフロンティア・スピリッツは、無視するわけにはいかないでしょう。

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