現金に体を張れ (名作一本)

1955年UA映画/スタンリー・キューブリック監督

 マニアックな人気のあるキューブリック監督ですが、彼のキャリアがどれだけ長いか、ご存じでしょうか? 実は50年代から映画界にいました。キューブリックの作品はどれも、その時代ならではの匂いがあります。50年代といえば、フィルムノワール全盛期ですが、キューブリックもやはりフィルムノワールの匂いを嗅がせる作品をいくつか残しています。

 フィルムノワールの流れを汲む「現金に体を張れ」は、キューブリックの初期作品を代表する大傑作です。日本では最初に公開されたキューブリック作品です。ひとつの強盗事件を追った犯罪ドラマなのですが、そのストーリーの構成力は、今見ても見事の一語です。
 強盗には複数の人物が関わります。彼らは周到に打ち合わせをして、各人別行動で極めて計画的な完全犯罪をたくらみます。別行動だから、同じ時間でも、人それぞれやることは違います。ブツも人から人へと移動していくのです。
 本作では、彼ら強盗団が、この事件にどのように関わっていくのかを、ひとりずつシーケンスごとにわけて説明しています。そこが本作最大のポイントです。

 同じ時間を何度も繰り返し、場所と視点だけを変えて見せていく斬新な手法は、クエンティン・タランティーノら近年の若い監督たちにも何かしら影響を与えています。90分足らずの映画ですが、後半で登場人物を一挙にまとめて、最後、思わぬ結末をもってくるところも巧く、若かりしキューブリックの作家主義を思わせる名作一本です。

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