大いなる遺産 (名作一本)

<1946年/イギリス映画>
監督・脚本:デビッド・リーン
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本:ロナルド・ニーム、アンソニー・ハブロック・アラン
撮影:ロナルド・ニーム、ガイ・グリーン
出演:ジョン・ミルズ、アレック・ギネス、ジーン・シモンズ
アカデミー賞(撮影賞、美術監督賞、装置賞)受賞
映画は派手な技巧で見せればいいってもんじゃない
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 英国の文豪チャールズ・ディケンズの原作の映画化であるが、ディケンズ映画としては最良の出来映えといっていいだろう。さすがに英文学の古典というだけあり、ストーリー展開がユニークだ。ずばり、英文学映画の原点に戻るのなら、この「大いなる遺産」に戻りたまえ。英文学の神髄を確かめたまえ。

 最近再映画化されたが、私は断然デビッド・リーン監督作を薦める。リーンの演出技法は確かで、シンプルな見せ方の中に映画らしさを残しており、文学では成し得ない時間の娯楽芸術と空間の娯楽芸術を見せる。同作はアカデミー賞の撮影賞を受賞。本当の映画技法とは何か? 技巧を弄す映画作家たちに、この映画の描き方を学んでもらいたい。ストーリーと見せ方は見終わったあと、レポートに書いてみるのもいいかもしれない。絵コンテがどんなだったかを想像して描いてみるのもいいだろう。なぜそうまでして私がこの映画の見せ方にこだわるのかというと、この映画が隠された技巧に裏打ちされた、でしゃばらない映像の物語だからである。リーンの「大いなる遺産」は英文学らしい英文学であり、すこぶる映画らしい映画の教科書なのだ。その意味では、私は同作を見て、ワイラーの「嵐が丘」に似た感動を覚えた。

 内容は、一人の男の愛と青春と運命を描き、我々の人生にも様々のことを訴えかけてくれる、ディケンズらしいヒューマニズム。娯楽映画としては割と長目の部類に入るおよそ120分の上映時間だが、3時間の作品が多い文芸映画(この手の大作もリーンは得意だが)と比べてしまうと、短い部類に入るわけで、つまり文芸映画でありながら手軽で、一般娯楽映画よりも濃い内容が満喫できるわけである。ストーリーの進行度合いは実にバランスがよく、ぐいぐいとひきつける。ところどころで見せる挿話の温かさと、登場人物のユーモラスな性格描写が、重厚な人間ドラマにほほえみを与えている。ミステリアスな雰囲気も残しつつ、後半からは緊張感も高めており、ラストでは「そう来たか」と驚かせたと思いきや、観客の感情を高揚させながらそのままの勢いでフェードアウトする見事な演出である。よく2時間のうちにここまで大量のストーリーを慌てず焦らず見せることができたものだと、そのまとめかたと話法にはうなるばかりだ。

 主演は英国の名優ジョン・ミルズ。リーン映画の常連で、脇役が多い役者だが、この映画では貧民階級から成り上がった英国紳士を、田舎臭さと気品という対極するふたつの表情を合わせて演じ、文芸映画の雄ローレンス・オリビエ、ロナルド・コールマンにはない親近感があった。キャスティングの妙という意味においても同作の価値は高いだろう。脇のアレック・ギネスがまた愉快だ。

「Great Expectations」で英語のお勉強
 この映画で英語のお勉強ができてしまうのです。この映画は字幕無しでもある程度話の内容がわかるようになっています。なんでかって、この映画の会話のほとんどは質問と答えのキャッチボールだからです。主人公は多くの個性豊かな登場人物に会って、色々な質問を受けます。話すスピードもたいして早くありません。米語よりも易しいですよ。実は私が初めて原書で読んだ本も「Great Expectations」でした。ディケンズの本は、つくづく面白いと思わせますね。

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