エノケンの孫悟空 (名作一本)

1940年/日本/モノクロ
製作:滝村和男/監督・脚本:山本嘉次郎
撮影:三村明/音楽:鈴木静一
特撮:円谷英二、奥野四郎
出演:榎本健一、柳田貞一

■作品紹介
 エノケン一座があの有名な「西遊記」の物語を映画化した愉快で摩訶不思議なミュージカル&アドベンチャー映画。うら若き高峰秀子さんがチョイ役で出演していることも注目。

■エノケン(榎本健一)とは
 日本のボードビルを確立し、あらゆる日本の”芸”を開拓していった凄い喜劇役者である。エノケンこそ日本の芸能人のルーツなのかもしれない。 ■解説
 製作された年は1940年である。つまり戦前映画である。日本映画がハリウッドに匹敵するほど栄えたのは戦後からなので、この映画がいかに古いか、おわかりいただけるだろうか? まだ黒澤明もデビューしていない時代である。この当時の監督には、小津安二郎、溝口健二、山中貞雄、成瀬巳喜男、伊藤大輔らがいるが、彼らと同じく、山本嘉次郎は日本映画黎明期の傑作といえる作品を多数残していった。中でも「ハワイ・マレー沖海戦」は戦時中に作った迫力の特撮戦争映画として、すこぶる評価が高い。彼は別の路線の作品として、エノケンと組んで沢山のミュージカル・コメディも発表しており、ここで紹介している「孫悟空」はそのうちのひとつにあたる。
 内容は、とてもバカバカしく、数々のおふざけ描写(例えばほうれん草を使ってポパイをもじったりするシーンなど)は「西遊記」らしさを削ぎ落とし、とてもそれらしさをとどめてはいない。実際この映画は「レビュー映画」という表現の方が相応しく、これほでまでに歌と踊りがエピソードごとに盛り込まれた本格派和製ミュージカルは、戦後は生まれていないだろう。替え歌が多いが、役者の演技は皆生き生きとしており、とても明るく楽しい。エノケンはこの当時、あらゆる物語をパロディにして観客を爆笑させていたが、「西遊記」という物語も、彼らにとってはレビューや彼らのジョークを見せるためのひとつのモチーフでしかないのである。それはさながら後のテレビ番組を予感させるものである。セットも何やら即席スタジオぽい印象を受けなくもない。テレビがまだ発明されてなかった当時は、観客たちはこういう作品に飢えていたに違いない。この「孫悟空」は、内容こそ他愛ないものであるが、しかしとても愉快で楽しく、愛すべき内容であることには違いない。

オリジナルページを表示する