青春残酷物語 (名作一本)

1960年/日本/松竹
監督・脚本:大島渚
★★★★

「松竹ヌーベルバーグ」
60年代は、世界的に映画に新しい波が押し寄せた時期であった。これまでの陽気でハッピーな映画に真っ向から反発し、病んだ社会に目を向けた映画が氾濫した。これらの運動はフランスではヌーベルバーグ、イギリスではフリーシネマ、アメリカではニューシネマと言われた。日本は英米よりも早くにヌーベルバーグのスタイルを取り入れていた。それはこの「青春残酷物語」に始まったのだ。 大島渚若き日の傑作
 この作品は大島渚の第2作目である。当時28歳。しかし出だしからかなり引き込まれる内容だ。青年が町で出会った少女とセックスしたいために、その娘を海へ放り投げ、「大人しくしないと助けてやんないぞ」と脅迫する。そこから二人は肉体関係を持ち、セックスしたことで愛が芽生える。そして二人はしだいに破滅の道へと突き進んでいき、残酷きわまりないラストシーンを迎えるのだ。

 男と肉体的な愛で結ばれた少女は、気持ちを入れ替えようと、咳き込みながらもタバコを吸う決心をする。このくだりが、地味ながらも素晴らしい。最近はタバコを吸いながら町を歩いている若い女の子をよく見かけるようになったが、彼女たちの動機を象徴するかのようなカットである。勉強するよりはとことん愛に生きよう・・・。女性スモーカーのきっかけは、世間体へのちょっとした反抗の表れなのかもしれない。

 主役の青年がまたいい。中年親父のスケベ心を利用して金をだまし取ったり、人妻と寝て「楽しませてやったんだからこれぐらいもらっていいだろ」と言って金を巻き上げたり、病んだ青春像が面白く、熾烈な内容であるのに、なぜか気持ちがよくわかる。同作が当時の若者たちに支持された理由は、若者たちの生き様がよく伝わるからではないか? ましてや性に興味を持ち始める時期は道徳観が歪むから、なおさらだろう。歪みたくても歪めない若者たちにとって、刺激的な一本だったに違いない。

 ところで、僕の小学生時代の幼なじみは今や20歳も年上の人妻の教師と恋愛関係を持ち、不倫の道を突っ走っている。もう一人の友人は、女子高校生から人妻まで、数え切れないほどヤリまくった。友人は中国人2人・韓国人2人ともやった。親がいる部屋の上の階でそこの娘とやっちまったこともある。そういえば隣人の人妻ともやった(何と3歳の子供の前でやったことも。それでいて彼には風俗経験がなく、全てナンパから始まっている)。しかし彼はどこか孤独な人間だった。この映画の主人公たちのように・・・。孤独な若者たちは、所構わずセックスに明け暮れる。少しでも性に興味がある人間にとって、この映画はある意味、真の青春映画と言っていい。

 それにしても、ただただ素晴らしいのは主人公が無言でリンゴを食べるシーン。目の表情とリンゴの音だけで青年の本当の姿を浮かび上がらせていて、大島渚の若き才能がうかがえる。大島渚の感性が生きている。写真からオーラが出ている。ここを一番見て欲しい
(第51号 「名作一本」掲載)

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