わらの犬 (名作一本)

<1971年/アメリカ>
製作:ダニエル・メルニック
監督・脚本:サム・ペキンパー
撮影:ジョン・コキロン
音楽:ジェリー・フィールディング
出演:ダスティン・ホフマン、
    スーザン・ジョージ

この映画は【R指定】です。

とにかく激しい暴力シーンを見てくれ
 この映画は、とても視覚的・聴覚的なドラマである。映像だけでも存分にドラマを語っているので、もし字幕がなかったとしても楽しめるだろう。特に暴力シーンのインパクトといったら凄まじく、耳にガンガン鳴り響く効果音と、その短いカットつなぎの迫力は開いた口が塞がらなくなる。言葉は分からずとも存分に楽しめる。サム・ペキンパーはやっぱり世界一の暴力映画作家だとつくづく思わせる。「わらの犬」はペキンパー初の現代劇という意味でも、ぜひとも注目してもらいたいものだ。

暴力反対の人間に暴力を楽しませる試み
 この映画の主人公は臆病者である。当然平和主義者。演じる男もシャイな印象がたまらないダスティン・ホフマンだ。前半は彼の気の弱さを強調して描いているが、陰険な不良グループにいじめられて、後半になると、ついにキレる。キレまくる。これがただの喧嘩じゃなくて、今にも血管がひきちぎれそうな大剣幕である。スコットランドの伝統音楽をガンガン流しながら、やりすぎなほど暴力に狂う様は、まるで暴力を楽しんでいるかのようで、この豹変ぶりが凄い。今にも画面からはみ出しそうな鬼気迫るバイオレンスは、しだいに我々見る者までも陶酔させてしまう。恐らくペキンパーの狙いは、我々の内面に潜む暴力的な心理を引き出し、殺戮を楽しんでもらうことなのだろう。これが快感さえ感じてしまう。
 ペキンパーが色々な人から非難されたのは、彼の映画が、外面的だけでなく、内面的にも暴力的だったからなのだろう。
(第36号 「名作一本」掲載)

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