天国への階段 (名作一本)

A Matter of Life and Death

<イギリス/1946年/ファンタジー>
監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
撮影:ジャック・カーディフ/音楽:アラン・グレイ
出演:デビッド・ニーブン、キム・ハンター、レイモンド・マッセイ、
ロジャー・リブシー、ロバート・クート、リチャード・アッテンボロー



●ストーリー
 パラシュート無しで飛行機から飛び降り、戦死してしまう運命のはずだったイギリス兵士が、天使のミスで、命が助かってしまう。20時間後、天使がやっと迎えにくるが、そのとき兵士は可愛らしいアメリカ娘と激しい恋に落ちていた。果たしてこの愛を裂いてでも兵士を天国へと連れていくべきか、天上界史上初の大裁判が開始される。
総天然色映像の美しさ
 多少お国柄を見せたお茶目な物語であるが、この映画で本当に注目すべきはストーリーではなく、総天然色のテクニカラー映像である。いやとにかく美しい色彩である。
 当時はカラー映画は珍しい方だったので、そういう作品群ではどぎついくらい色が使われていたが、同作に関してはやや印象は異なり、コントラストの強い配色でありながらも決して相殺しない鮮やかな色合いを見せていて、キム・ハンターのアップの表情など、愛くるしいほど美しい。
 テクニカラー独特のこの”作られた”色合いは、今の映画には決して見られなくなったが、「天国への階段」を見ていると、どうしても再認識してもらいたくなってくる。

あの世とこの世のつなぎ目
 面白い演出がある。この映画では、あの世の映像がモノクローム、この世の映像が総天然色カラーである。このモノクロームの映像も単なる黒白フィルムとはどうやら質感が異なり、立体を感じさせて見モノであるが、ここで面白いのはあの世とこの世の場面変化の見せ方である。モノクロからカラーへ、カラーからモノクロへ、ゆっくりとディゾルブするのだが、この変換が意表を突いており、素晴らしい。最近の映画ではこれも全く見られなくなった技術である。こういう美的な演出をさらりとするところが、パウエル/プレスバーガーらしい洒脱なセンスだと言えよう。
 また、天使が訪れたとき、この夜の時間は止まってしまうのだが、その止まっている様子の描写力もさすがである。「ピタリ」の言葉で表現されそうな映像ではなく、まさしく「静止」である。実に摩訶不思議な印象を与える。
(第33号 「名作一本」掲載)

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