東京オリンピック (名作一本)

<日本/1965年/170分/ドキュメンタリー>
監督・脚本:市川崑



ベルリン・オリンピックの感動再び
 ベルリン・オリンピックをドラマチックに映像化した「オリンピア」は、オリンピック映画の最高傑作とされてきた。ところが、市川監督が、これを超える作品を作っていたのである。それがこの「東京オリンピック」である。「オリンピア」のように、競技よりも”映画”を見せることが目的となった作風であるが、よりユニークに描いており、カラフルな色彩感覚で見せるカメラ・ショーには、ただただ驚くばかりで、最初の入場のシーンからマラソンのアベベのクロースアップまで、全編が圧巻である。これは日本のカラー映画の最高傑作だ!

これは実際の映像を使った芸術映画である
 製作費3億7000万円。凄すぎる。カメラマンは林田重男、宮川一夫を含む総勢164名、カメラ台数130台、レンズ232個という贅沢さ。選手だけに限らず、会場の様子や観客の表情など、様々な視点から撮影し、膨大なフィルムの中から、「ここだ」というべき芸術的カットだけを厳選して、それらをバラエティ豊かにつなげあわせて、勝敗に関係なく、映像美を楽しむための飽くなきカメラショー映画となっている。
 市川監督の頓知もきいていて、勝った選手だけでなく負けた選手にスポットを当てたり、他の選手は無視して一人の選手だけをひたすらカメラで追いかけたり、砲丸なげで投げた弾よりも弾を投げた選手の表情を捉えたり、休憩時間の食事の風景をスケッチ風に描いたり、色々な工夫をしている。
 実は同作はドキュメンタリーでありながら、あらかじめ試合前に脚本が作られていたのである(脚本家の中には詩人の谷川俊太郎もいる)。つまりこれは記録を知るための映画ではなく、芸術を楽しむための映画なのであり、誰が優勝したのかは、この映画では重要なことではないのである。こういう少しひねくれた反骨精神的演出が、芸術家から賞賛を浴びる結果となる。

これが映画のカメラワーク
 最近またオリンピックの話題で盛り上がってきたが、テレビの中継映像が余りにもショボくて見ていられない感じがあった。
 「東京オリンピック」のカメラの褒めるべき点はあげれば切りがない。映画らしい娯楽性と芸術性を持ったカメラワークである。俯瞰ショットもローアングルも、望遠も広角も、主観映像も客観映像も、スローモーションもストップモーションも、ありとあらゆるカメラテクを活用しており、その全てが功を奏しているから見事なものだ。世界初2000ミリレンズによる超クロースアップで捉える選手の強靱な肉体の映像に感動し、パッパッパッと素早くカットつなぎする編集の妙にも驚かされる。上映時間は3時間近くあるが、ワンショットの時間は極端に短かったり、長かったり、様々である。
 音声面もさすがに録音技師57名導入しただけあって、素晴らしい。「オリンピア」では実現できなかった、音の芸術に成功している。ジャンプするときのバサッという音や、選手たちの粗い息づかいなど、大きな音も小さな音も、実に生々しく、感動が倍加する。バレーボールの導入部では、映像を廃して、試合の様子を音響だけで示しており、これまた斬新。
 BGMも変わっていて面白い。スポーツとはまるで関係なさそうな音楽を、平気でシンクロさせているところに注目してもらいたい。音楽と映像の相互依存効果をわきまえたユーモラスなBGMである。
(第32号 「名作一本」掲載)

オリジナルページを表示する