激突! (名作一本)
Duel
★★★★★
<1971年/アメリカ/ホラー>
監督:スティーブン・スピルバーグ/原作・脚本:リチャード・マシスン
撮影:ジャック・マータ/音楽:ビリー・ゴールデンバーグ
出演:デニス・ウィーバー
ひと気のないハイウェイで、中年のドライバーが、突如大型タンクローリーに襲われる不条理なホラー映画。
スピルバーグ25歳にして最高傑作
「激突!」は、日本では劇場公開されているが、アメリカではテレビのみのテレビ映画である。監督のスピルバーグは当時25歳。テレビ映画だから、まだハリウッドの商業主義に毒されておらず、演出も好き勝手にやっているようだ。
僕はこの作品をスピルバーグの最高傑作としたい。映画を作る人間なら、ぜひ教本にしてほしいとも思う。「演出を練りに練る」ということが、どれだけ作品を映画らしい作品に仕上げることができるか、これで勉強できるだろう。
スピルバーグは実に色々な演出を試みている。この映画がどれだけ沢山のショットで組み立てられているか、意識してみると驚くばかりである。カメラの位置も毎度変えていて、車を写すにも様々な構図とアングルを活用している。もろにアルフレッド・ヒッチコックの影響を感じさせる映画だが、クロースアップ、ローアングル、スローモーション、多重露光、逆光、トラッキングショット、モノローグなど、映画のありとあらゆる演出を自然にやっちまった才能は、スピルバーグ青年ならでは。興奮しながら演出している様が伺える。
ただでは見せない気の利いた演出
この映画は映画を余り見ない人が見ても面白いが、映画を見る目が肥えくると、見るたびに細かい発見があって、いつしかその完成度の高さが怖くなってくる。70年代以降のハリウッド映画に、この作品よりも優れた映画はない! そう断言できるほど、完璧な作りである。
ストーリーはシンプルで、それでいて頓知がきいている。みんなに気付かない程度に巧妙な演出をきかせている。その工夫に気付いたときには、思わずうなってしまうだろう。普通の監督なら、シナリオに1と書いてあれば、1から、せいぜい2の演出までが限度だろうが、スピルバーグの場合、1から2・3・4とどんどん膨らませている感じがする。言葉では一言で説明できるシーンでも、ストーリーの展開に差し支えがなければ存分に遊んでいるのである。
登り坂でラジエーターの調子がおかしくなるシークエンスでは、バーナード・ハーマンばりの音楽に乗せて、主人公の表情のクロースアップや、メーターの数字の極端な接写、遠くからの車とトラックのロングショット、ついには主人公の足下から見上げたカットまで挿入して、ダイナミックに演出している。
スピード感を出す演出もうまいが、それを更にユニークに見せるトリックがまたうまい。たとえば、あまりの勢いに外れてしまうホイールカバー。そのホイールカバーは数秒後にトラックの下敷きになる。ただ高速で走り抜けるトラックを捉えても芸がないが、こういう演出を見えるとコクが出てくる。スピルバーグはいたるところで、このように芸を見せるのだが、こういうウィットのあるアイデアが、他の監督ではまず気付かない天才的センスである。
(第31号 「名作一本」掲載)
★★★★★
<1971年/アメリカ/ホラー>
監督:スティーブン・スピルバーグ/原作・脚本:リチャード・マシスン
撮影:ジャック・マータ/音楽:ビリー・ゴールデンバーグ
出演:デニス・ウィーバー
ひと気のないハイウェイで、中年のドライバーが、突如大型タンクローリーに襲われる不条理なホラー映画。
スピルバーグ25歳にして最高傑作
「激突!」は、日本では劇場公開されているが、アメリカではテレビのみのテレビ映画である。監督のスピルバーグは当時25歳。テレビ映画だから、まだハリウッドの商業主義に毒されておらず、演出も好き勝手にやっているようだ。
僕はこの作品をスピルバーグの最高傑作としたい。映画を作る人間なら、ぜひ教本にしてほしいとも思う。「演出を練りに練る」ということが、どれだけ作品を映画らしい作品に仕上げることができるか、これで勉強できるだろう。
スピルバーグは実に色々な演出を試みている。この映画がどれだけ沢山のショットで組み立てられているか、意識してみると驚くばかりである。カメラの位置も毎度変えていて、車を写すにも様々な構図とアングルを活用している。もろにアルフレッド・ヒッチコックの影響を感じさせる映画だが、クロースアップ、ローアングル、スローモーション、多重露光、逆光、トラッキングショット、モノローグなど、映画のありとあらゆる演出を自然にやっちまった才能は、スピルバーグ青年ならでは。興奮しながら演出している様が伺える。
ただでは見せない気の利いた演出
この映画は映画を余り見ない人が見ても面白いが、映画を見る目が肥えくると、見るたびに細かい発見があって、いつしかその完成度の高さが怖くなってくる。70年代以降のハリウッド映画に、この作品よりも優れた映画はない! そう断言できるほど、完璧な作りである。
ストーリーはシンプルで、それでいて頓知がきいている。みんなに気付かない程度に巧妙な演出をきかせている。その工夫に気付いたときには、思わずうなってしまうだろう。普通の監督なら、シナリオに1と書いてあれば、1から、せいぜい2の演出までが限度だろうが、スピルバーグの場合、1から2・3・4とどんどん膨らませている感じがする。言葉では一言で説明できるシーンでも、ストーリーの展開に差し支えがなければ存分に遊んでいるのである。
登り坂でラジエーターの調子がおかしくなるシークエンスでは、バーナード・ハーマンばりの音楽に乗せて、主人公の表情のクロースアップや、メーターの数字の極端な接写、遠くからの車とトラックのロングショット、ついには主人公の足下から見上げたカットまで挿入して、ダイナミックに演出している。
スピード感を出す演出もうまいが、それを更にユニークに見せるトリックがまたうまい。たとえば、あまりの勢いに外れてしまうホイールカバー。そのホイールカバーは数秒後にトラックの下敷きになる。ただ高速で走り抜けるトラックを捉えても芸がないが、こういう演出を見えるとコクが出てくる。スピルバーグはいたるところで、このように芸を見せるのだが、こういうウィットのあるアイデアが、他の監督ではまず気付かない天才的センスである。
(第31号 「名作一本」掲載)