黄金 (名作一本)

The Treasure of the Sierra Madre

<アメリカ/1948年/121分/コメディ>
製作:ヘンリー・ブランク/監督・脚本:ジョン・ヒューストン
出演:ハンフリー・ボガート、ウォルター・ヒューストン

まるでシェイクスピア劇のような面白さ
 この映画は僕の大好きな作品。僕は映画を見始めて間もない頃にこれを見たのだが、当時相当なショックを受けたものだ。この映画を語るときは映像がああだこうだとかそんなのは関係ない。ストーリーがとにかく絶妙で、シェイクスピア劇さながらの人間喜劇と大展開が楽しめるのである。
 藤子不二雄(A)さんもジョン・ヒューストンの話術に惚れた一人で、ヒューストンの影響をかなり受けているようだが、確か藤子さんも「黄金」が一番気に入っていると話していた。かのスタンリー・キューブリック監督もこの映画を大好きといっており、これはもう何が何でも面白くてたまらない映画だ。見た後必ず誰かに薦めたくなってしまう。

身近に感じることのできる心理
 この映画は、貧乏な浮浪者3人が、一攫千金を夢見て黄金を掘りにいくというものである。3人ともとてもいい性格をしているのだが、さすがに黄金を発見してからは目がくらんで、金銭欲と猜疑心の固まりとなる。掘れば掘るほど欲がでてきて、きりがなくなり、またしだいに友達が信用できなくなって、夜もろくに眠れなくなる。本作は、こういう「大金を見ると人間はこうも変貌してしまうのか」という人間なら誰でも持っている心理を極端に描いた作品である。その変身ぷりが余りにもユーモラスで、ヒューストンが変身前と変身後を相対的に描いているものだから、僕らも、映画を見ながら笑いつつも、もし自分だったらどうなるだろうと身近に考えさせられてしまうからよくできたものである。

ウォルター・ヒューストンがいい
 助演のウォルターがまたいい。老いぼれているようで、実はタフで頭が切れるところがいい味が出ている。ウォルターの表情だけを見ていても楽しいが、何と言っても、ラストで文字通りの大笑いを見せるシーンが最高に素晴らしい。大口開けてあそこまで気持ちよく笑ってくれると、見ているこっちもとにかく一緒に大笑いしてしまう。
(第30号 「名作一本」掲載)

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