ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド (名作一本)

Night of the Living Dead

<アメリカ/1968年/96分/ホラー>
監督・撮影:ジョージ・A・ロメロ/脚本:ジョン・A・ルッソー
出演:ジュディス・オデア、ラッセル・ストレイナー、デュアン・ジョーンズ



30年も前にこれほどショッキングな映画があったとは
 これはゾンビ映画のスタイルそのものを確立させているし、恐らく近年のホラー映画の原点といっていいのではないだろうか。何ともいえない後味の残る問題作である。
 30年以上も前にこれだけ異色のホラーを作ったというのは凄いことである。当時、このような斬新で悲惨な映画は全くなかった。ジョージ・A・ロメロのスタイルはまるで自主映画的であり、いかにも低予算で作ったという印象を与えるが、カメラワークも編集も稚拙ではあるが、丁寧に研究している姿勢が感じ取れ、ストーリーのアイデアも新感覚だ。


地味な映像の中に丁寧に恐怖を描く
 後に「バタリアン」(Return of the living dead)でものの見事にパロディ化されてしまい、「バタリアン」の方が有名になってしまったせいで、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」の方が見慣れた映画の烙印を押されてしまいそうだが、実際はこれこそゾンビ映画のオリジナルなのであり、恐らくゾンビという怪物が初めて登場する映画だと思われる。これもホラー・マニアでないと知らないようなマニアックアイテムになってしまったが、ここ最近の派手なゾンビ映画に比べると、作りは至って正統派であり、地味に恐怖を描いているところに注目してもらいたい。何しろモノクロなので、かえってショッキングである。


前置きも何もない唐突な展開、ゆえに怖い
 しょっぱなからいきなり死人が動き出して人間を襲いかかるが、これが何の動機も理由も伏線もないために、かえって哲学的な趣を持たせる結果となった。前置きなどは必要ない。「人間が死人に襲われる映画」、それでいいのだ、というような頑固さで描いている。ゆえにストーリー展開はシンプルなもので、不条理ながらもわかりやすく、そこが恐怖心をかき立てる。
 これが興味深いのは、密室劇ということである。ゾンビから逃れるため、主人公たちは一軒の家に逃げ込む。しかしそこは袋の鼠。その一軒の家でこれからどうしていくのかが面白い。窓をぶちやぶって入ろうとするゾンビもいるが、そいつらはライフルで容赦なくぶっぱなす。が、ゆっくりとゆっくりと主人公たちは追いつめられていく。このテンポの緩やかさが今のホラーにはない味わいである。今のホラーは何かと恐怖描写を急ぐ傾向があるからである。この作品はじっくりと描いたことで、登場人物に考えさせる時間を与えることができた。だから登場人物の仲間割れのエピソードなども、強引に付け加えたようなありがちな演出にはなっておらず、ストーリーにうまく溶け込んでおり、主人公たちがテレビのニュース放送を見守る演出が生きている。


忘れられない哲学的ラストシーン
 しかし一番素晴らしいのはラストシーンである。突如ゾンビがいっせいに家を襲撃、もう逃げ場がなくなり、地下室に入るが、地下にはゾンビと化した少女がおり、その少女は実の母を刺し殺す。このシーンの何たる惨たらしさか。怖すぎる。
 黒人の主人公は仲間がゾンビになるや冷静に撃ち殺すが、ここでカメラは撃たれるゾンビの顔でなく、黒人の表情の方に向けられ、このときの目つきがまた忘れられない。
 その後、舞台は外に出る。屋外もゾンビだらけであり、とうとう世界そのものが密室となっている。人間たちがゾンビと戦っている様を、カメラはロングショットで見つめる。この映像は世界の終末を予見させ、あまりにもおぞましい。
(第27号 「名作一本」掲載)

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