スリーパー (名作一本)

Sleeper

★★★

<アメリカ/1973年/88分/SF>
監督・脚本・音楽・出演:ウディ・アレン
脚本:マーシャル・ブリックマン/撮影:デビッド・M・ウォルシュ
出演:ダイアン・キートン



●胃潰瘍で入院したら冷凍されて200年後に
 「スリーパー」は、現在最高のコメディ作家であるウディ・アレンが、珍しくSFに挑戦した作品である。アレンは他にも幾分かSFチックな面を持った映画を撮っているが、全体を通してSFに徹したものはこれ一本だけだろう。それだけに、異色である。
 胃潰瘍で入院したら、冷凍保存されてしまって、目が覚めたら、自分は警察国家と化した200年後のアメリカにいたというのが物語の発端で、アレン独特の諷刺を堪能することができる。

●なんじゃこの物体は!?
 僕も色々なSF映画を見てきたが、この映画ほど小道具がユニークで、見た目から愉快なものはなかった。諷刺的なオブジェから、よくぞ考えついたもんだという意味不明のチープな未来グッズがいたるところに登場し、アレンはその小道具を使って、他のコメディとは一味も二味も違うジョークを体でもって披露する。座り方のわからない椅子や、背中にしょったら空を飛べるプロペラ、触っているだけで恍惚感を得られる玉など、他のSF映画では考えられない発想がこの映画の楽しみを増やしている。

●まだまだ目で見て笑えの映画
 ウディ・アレンの才能はビリー・ワイルダー以上かもしれない。ただしそれはつい最近言われるようになってきた話であって、昔のウディ・アレンの作品を見ていると、作品のスパイスはばかばかしさだけで、後年のシナリオに見られるような、精神的に観客を左右させるほどの説得力は見あたらない。まだまだ目で見て笑うだけの映画なのである。アレン映画初期の代表作「スリーパー」はギャグの連続だが、ギャグのほとんどは、映像的な物珍しさに頼ってることは否定できない。巨大な野菜が出てきたり、アレンがロボットに変装したり、やはり視覚面の要素が強い傾向がある。その分、後からこの珍ギャグも見慣れてしまって、飽きがくるのである。
 ただ、この作品は、後の大作家ウディ・アレンがまだ凡人だった頃の作品だとして、研究資材ともいえる価値があるということだけは、間違いない。1カットに光る感性は、すでにこの映画からも発見できることだろう。
(第21号 「名作一本」掲載)

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