反撥 (名作一本)

Repulsion

<イギリス/1965年/105分/ホラー>
監督・脚本:ロマン・ポランスキー/脚本:ジェラール・フラッシュ
撮影:ギルバート・テイラー/音楽:チコ・ハミルトン
出演:カトリーヌ・ドヌーブ、イヴォンヌ・フルノー、ジョン・フレーザー



●オープニング・シーンから「!!」
 この映画はオープニング、女性の瞳の極端なクロースアップから始まる。その映像に重なって、スタッフ・クレジットが斜めからボーっと出てきて、サイケデリックな印象を与える。やがてレンズが後退していき、その目がカトリーヌ・ドヌーブの目だったということがわかるが、そのときのドヌーブの表情が異常で、いきなり我々は画面に釘付けになる。この1シーンはスリラーのオープニングとして、我々を引きつけて離さない広告的上手さである。

●女性の異常心理を映像の雰囲気で見せる
 この映画はそもそも、思春期に入った処女の女の子が、姉が毎日情事しているのに悔しさを感じつつも嫌悪感を抱くようになり、セックス恐怖症になって幻覚を見始め、ついにはボーイフレンドに拒絶反応(=反発)を起こして殺してしまうというものだが、異常心理の見せ方が他のサスペンスとは全くわけが違っていて、むしろホラー映画に近く、我々も女性の身になって幻覚の恐怖を味わうことになる。幻覚は「裂け目」や「自分を犯そうとする男」を見るというのが症状だが、壁に突然バーンという大音響と共に亀裂が生じる所など、かなりびっくりさせる。

●ドヌーブの恥を捨てての名演技
 室内のシーンになると、ローアングルを多少しているが、なぜか露光アンダーで、画面は陰になって見にくい。しかしドヌーブの美しい顔だけはくっきりと映されている。僕はこれまでドヌーブをいいなんて思ったことがなかったが、このドヌーブはほんとに良かった。やばい奴だけど、魅力を感じる。セミヌードの美しさにも唾をゴックン。
 彼女の演じる少女が、ただものの神経じゃないという所は、コーヒーに砂糖を沢山入れる所からも分かるが、完全に気が触れてからは何に対しても無気力となり、肉や芋も冷蔵庫に入れずにそのまんま。それがだんだんと腐っていく様は、少女の精神崩壊までも暗示している。
 幻覚にもがき苦しむ様を時計の針の効果音だけで表現したときのドヌーブの演技などは、恥を捨てており、鬼気迫る恐ろしさがあった。

●ロマン・ポランスキーの超自然的腕前
 こんなに「ムード」だけで恐怖を感じたホラー映画はそうない。僕が今までに見たホラー映画の中では、最も空気的恐怖を感じた知的な作品だ。幽霊や化け物が出ないと怖くないというわけではないのである。
 ロマン・ポランスキーらしいシュールな映像美にも満ちているが、この映画の上手さは主人公が仕事場へと出勤する姿を追ったシークェンスだけで実証される。ただカメラが彼女を追いかけるだけなのだが、BGMのドラム、エレキギター、ベースの音が異様に心理に問いかけてきて、何事もないのに、密室的緊張感が出ているのだ。
(第18号 「名作一本」掲載)

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