穴 (名作一本)

Le Trou

<フランス/1960年/123分/サスペンス>
監督・脚本:ジャック・ベッケル/原作・脚本:ジョゼ・ジョバンニ
脚本:ジャン・オーレル/撮影:ギスラン・クロケ
出演:ジャン・ケロディ、フィリップ・ルロワ、
ミシェル・コンスタンタン、レイモンド・ムーニエ、マルク・ミシェル

●ジャック・ベッケル最後の作品
 「穴」は脱走ものの名作中の名作である。実際に脱獄した経験のあるジョゼ・ジョバンニが全面協力し、脚本を執筆、フランス映画界の新鋭作家と目されていたジャック・ベッケルがメガホンを取って映画化した。ベッケルはこの作品を完成後、惜しくも他界するが、他に類を見ない緊迫したその演出ぶりは、後にあらわれるヌーベル・バーグ一派を刺激し、新時代映画の発端を築いたといえよう。

●大胆なる脱走計画
 この映画は、一言でいえば、5人の囚人がひたすら穴を掘っていく映画である。ただそれだけの話だが、演出が素晴らしいので、最後まで目が離せない。
 音楽を廃して巨大な効果音に刺激を置き、主観的クロース・アップを駆使して、リズミカルともいえる緊張感を醸し出す。コンクリートを鉄の棒で砕きながら掘っていく様子は、いっさい飾らず、構図とアクションと効果音だけでじっくりと感情を奮い立たせた見事な長回し演出である。
 最初は小さな穴だったのに、それがごっそりと大きな穴になっていく様も、何やら快感を覚えてしまう。

●果たして信用できるのか
 5人の囚人のうち、新入りの1人だけ、どうも信用できない。この新入りを信用するかしないかもひとつのサスペンスになっていて、ただでは終わらせない。
 ジャック・ベッケルの師匠はロベール・ブレッソンであるが、ベッケルは彼の「抵抗」に相当なインスピレーションを受けていると思われる。主観ショット、クロース・アップ、効果音の緊張は明らかに継承している。ただし、ベッケルの場合、娯楽的にも優れた手腕を発揮しており、つかみやすくなっているようだ。
(第14号 「名作一本」掲載)

オリジナルページを表示する