ローマの休日 (名作一本)

Roman Holiday

<アメリカ/1953年/118分/黒白/コメディ>
製作・監督:ウィリアム・ワイラー
脚本:アイアン・マクラレン・ハンター、ジョン・ダントン
撮影:フランツ・プラナー、アンリ・アルカン/音楽:ジョルジュ・オーリック
出演:グレゴリー・ペック、オードリー・ヘプバーン、エディ・アルバート

●なぜ「ローマの休日」だけが残った?
 現在の若者は、古典的名作を知る機会に恵まれていないが、古い映画の中でも、一本だけ、誰もが知っている映画があった。「ローマの休日」である。「ローマの休日」は、当時の観客の懐古映画に終わらず、若い世代にも引き継がれて多くのファンを獲得している名作である。しかしなぜこの「ローマの休日」だけが現代に生き残れたのだろうか? 今回はその謎を解くことにしよう。

●低俗な映画の氾濫する現代だから
 「ローマの休日」は、ストーリーだけを見ると、実はごく普通のコメディである。窮屈な生活を強いられた王女さまが、宮廷を逃げ出し、恋に落ちるという単純明快な映画だった。
 ここ最近の映画を見てみると、低俗な暴力映画の氾濫で、この手の映画は”古い”と言われるご時世である。
 でも、改めてこういう映画を見せられると、すごくハッピーな気分になれるものだ。倫理的に文句をいいたくなるような所などは全くないし、我々も素直な気持ちで、笑ったり泣いたりできる。

●オードリーがこの映画を永遠のものに
 ハリウッドで初仕事となるオードリー・ヘプバーンの演技は絶妙で、その純粋な可愛らしさは、今の女優にはなくなった魅力かもしれない。
 この映画で一番印象的なシーンは、やはりデート・シーンといいたい。文字通り”楽しいデート”である。ローマの造形効果を生かして、観光地を巡る様子を、黒白ならではの柔らかい映像でスケッチ風に描写し、おおはしゃぎするオードリーの幸せそうな顔を、カメラが躍動感たっぷりに捉える。本当に楽しそうで、ここで誰もが思うことは、「こういうデートがやりたいなぁ」
 オードリーのヘア・スタイルも流行ったが、単にお洒落だったから流行ったのではなく、あの王女さまが思い切って髪を切るのだからこそ、あの満面の笑顔に、女性のハートが揺れ動いたのだと思う。
 そういうオードリーの高揚感が、数多くのファンを生み出すきっかけになり、やがてオードリーは”サブリナ・パンツ”など、次々とファッション面で成功を収め、女性たちのアイドルになる。
 「ローマの休日」が、今も若者の心を捉えるのは、王女さまにとっては最初で最後の休日を精一杯エンジョイする、そのオードリーの素敵な表情があったから。そう僕は考えている。

●グレゴリー・ペックも同様に憧れの的に
 オードリーの姿に憧れた女性たちは、恐らく同様にグレゴリー・ペックにも憧れたに違いない。こういう素敵な男性と出会えないかと、シンデレラみたいに夢を見ているだろう。
 ペックは、パパラッチみたいな新聞記者だけど、やがて王女さまに恋してしまい、金よりも愛を取る。この過程がまたニクイ。キス・シーンに持っていくまでの見せ方も、監督ウィリアム・ワイラーの演出がお見事。びしょ濡れの中の予期せぬキス・シーンも、車の中で切ない別れのキス・シーンも、ロマンチックで真実の愛を感じさせる。
 ラストシーンの2人の表情も素晴らしい。あれだけ楽ませた後、ラストではじーんとさせるこの王道テクニック!
 やっぱり面白いのものは面白い。
(第13号 「名作一本」掲載)

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