ベン・ハー (名作一本)

Ben-Hur

<アメリカ/1959年/222分/歴史劇>
製作:サム・ジンバリスト/監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ルー・ウォレス/脚本:カール・タンバーグ
撮影:ロバート・サーティース、ハロルド・E・ウェルマン/音楽:ミクロス・ローザ
出演:チャールトン・ヘストン、ジャック・ホーキンス、
スティーブン・ボイド、ヒュー・グリフィス

 イエスが生まれて、処刑されるまでを背景に、
ローマ帝国下ユダヤ人地区エルサレムの
名家の長男ベンハーの波瀾万丈な人生を描いたスペクタクル映画。
●とんでもなく馬鹿でかいスケール
 「ベン・ハー」は凄い。スケールが違う。若い僕らでも思わず「おぉ」と唸ってしまうほどなので、リアルタイムで見た人がどれだけ感動したか、想像を絶するものがある。
 製作費も当時はぶっとんだ額の54億円だったし、出演者数もエキストラ含めて総勢5万人である。セットを作ることだけでも2年を費やしており、構想で10年、撮影期間も6年以上かかっている。カメラも高価で、一台10万ドルするものを6台も使って、70ミリフィルムで撮影した。
 この途方もない企画を、見事実現させたのは「クォ・ヴァディス」のサム・ジンバリスト氏である。監督には「我等の生涯の最良の年」の大職人ウィリアム・ワイラーを起用して作り上げたのだが(つまり雇われ監督)、ジンバリスト氏は惜しくも完成品を見ずして他界した。

●アカデミー賞最多11部門受賞
 この映画はもちろん大ヒットした。原作そのものも最もアメリカ人に読まれた小説のひとつだし、僕だってリバイバル公開されたら絶対に見に行きたいんだから、そりゃ大当たりするのも当然だ。やはり大画面大音響で見たい映画である。
 アカデミー賞では、作品賞を含む11部門で受賞(脚色賞だけ逸した)。順当な結果である。「ベン・ハー」のように、スケールが大きくて、しかもストーリーも面白い作品は、当時は全くなかったから(今もかな?)、それだけ沢山の賞を受賞していても、まだ足りないくらいである。部門数が今よりも少ない時代に11部門の受賞というのは大したものだ。この記録はいまだ破られていない。

●名場面数多し
 本作はスペクタクル映画の頂点に立つ作品だ。そりゃ名場面も多い。手に汗握る見せ場も沢山あり、戦車競争シーンの迫力は語りぐさになっている。駆け抜ける戦車をスピーディに捉えたロバート・サーティースのカメラ、今にも飛び出してきそうな勢いをそのまま再現した音響、素晴らしすぎる。
 僕の一番気に入っているシーンは、軍船で奴隷たちがオールをいっせいに漕ぐシークエンス。どんどんスピードを上げていく様は、釘付けになって見入った。このときのジャック・ホーキンス扮する指揮官とベン・ハーの表情も対比的でいい。
 主人公ベン・ハーが神に導かれるかのような表現をしているのも面白い。死にそうになったときキリストに水をもらったり、船の中で自分だけが鎖に繋がれないですむあたり、わくわくする嬉しい展開でいっぱいだ。

●チャールトン・ヘストン
 主演はチャールトン・ヘストン。この人はこういうスペクタクル映画には欠かせない存在になった。世界一ヒットした史劇である「十戒」でモーゼを演じたこともあり、神の顔のイメージときたら、いつもヘストンが連想される。わりと怖い顔で悪役が多いような気がしないでもないんだけどね。
 「ベン・ハー」はヘストンの最高の演技が見られる作品だ。ベン・ハーの憎悪に満ちた目つきは、この映画の最大の見所である。


 僕はルイス・B・メイヤーが作った「ベン・ハー」の方が個人的に好きだが、ジンバリスト版「ベン・ハー」も気持ちいいくらい規模が大きいので、満点の評価をつけておく。

(第8号 「名作一本」掲載)

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