八十日間世界一周 (名作一本)

Around the World in 80 Days

<アメリカ/1956年/文芸>
製作:マイケル・トッド
監督:マイケル・アンダーソン
脚本:ジェームズ・ポー、ジョン・ファロー、S・J・ベレルマン
撮影:ライオネル・リンドン/音楽:ヴィクター・ヤング
出演:デビッド・ニーブン、カーンティンフラス、シャーリー・マクレーン

●80日間で世界一周できるか?
 1872年ロンドン、「80日間で世界一周できるか?」といわれて、できると断言した英国紳士が、全財産を賭けて世界一周の旅に出るという娯楽映画。一言でどんな話か紹介できるから面白い。
 原作は「海底2万マイル」のジュール・ベルヌ。SF小説の第一人者が書いた本ゆえに、文明の発達を予感させる面もある。
 主演はデビッド・ニーブンである。彼はアメリカ映画にいっつも英国人らしい紳士役で出演する俳優なのだが、この映画の主人公はその強烈なる極めつけ。まさしくコチコチの英国人である。

●あらゆる記録をぬりかえる
 この映画はあらゆる記録をぬりかえた。
 ロケーション・ハンティングがまさに記録的である。世界中をロケしている上、ロケ期間も長期に渡り、セットの移動費用も莫大なものとなった。
 また、もう一つの記録、何とこの映画には、映画スターが何十人も特別に出演しているのだ。このボリューム感がアカデミー賞受賞につながったと思える。

●カメオという言葉はこの映画から
 ジョン・ギールグッドは首になった執事、シャルル・ボワイエは旅行店店主、フランク・シナトラはクラブのピアノ弾き、バスター・キートンは列車の車掌、ピーター・ローレは日本人の観光案内者、ジョン・ミルズは馬車の御者・・・。
 世界のスターがほんのちょい役でところどころに出演しているので、それを探すのも本作のひとつの楽しみだが、こういう特別主演することを、このこの映画から、”カメオ出演する”というようになった。偉大なるプロデューサー、マイケル・トッドが考えた言葉だ。

●世界の文化を座ったまま感じよう
 僕はこの作品を見て、「これこそ映画だ!」と、心の底から感動した。これ一本で世界中の文化が一度に楽しめてしまうわけだが、何しろ横長の大画面を縦横無尽に利用しているから大迫力!
 キャスティングが証明するように、この映画はサービス精神がとにかく旺盛で、映画は何十という見せ場に彩られている。スペインのフラメンコに感動し、アメリカのフロンティア・スピリッツにロマンを感じる。気球に乗って山を越えていくシーンなんか最高! 大袈裟に誇張された文化諷刺的キャラクターのはじけたウィットも面白い。大人から子供まで、純粋に休暇気分で楽しめる、微笑ましい馬鹿らしさに満ちた、本当に幸せなコメディである。
 映画が終わると、僕はなんだか、ひとつのお気に入りの連続ドラマが終わったような気がして、とても寂しくなってしまった。これぞ究極の娯楽映画だ!
(第6号 「名作一本」掲載)

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