ファンタジア (名作一本)

Fantasia

<アメリカ/1940年/アニメーション>
製作:ウォルト・ディズニー、ベン・シャープスティーン


(C)Walt Disney
●ドタバタ・コメディを期待してちゃ駄目だぞ
 ディズニー・アニメで、しかもミッキーマウスが出てくるから、これはドタバタ・コメディだろう、そう思ってビデオ借りちゃ駄目だぞ。「ファンタジア」は、今にしても意外かもしれない、全く異質のアニメーション映画、他には見られないアニメーション映画なのだ。

●クラシック音楽を映像表現
 では「ファンタジア」はどういうアニメ映画なのか? これは、クラシック音楽の持つ印象を、独特な解釈で映像化したアニメなのである。例えば、チャイコフスキーの「クルミ割り人形」を小さな妖精で表現したり、ベートーベンの「田園」をケンタウルスの神話として描いた。
 上写真はムソルグスキーの「禿げ山の一夜」のイメージ。幽霊や鬼たちが宙を彷徨い、巨大な悪魔が闇の中から登場する、世にも恐ろしい映像である。このシークェンスは、公開当時から今なお、見る者に大きな衝撃を与える。
 いってみれば、映像はサイレント映画のようなものだが、そこに音楽が渾然と一体化したところが、革命だった。音楽と映像のシンクロ。これがディズニーの新しいアイデアだった。

●音楽ファンも喜ぶ選曲
 この映画では、当時大人気だった指揮者レオポルド・ストコフスキーが出演している。そして、バッハから、シューベルトまで、有名どころの大作曲家の作品をダイナミックに指揮する。曲目はロマン派あり、バロック音楽あり、バレエありで非常にバラエティ豊か。”クラシック音楽入門映画”といってもいい嬉しい選曲だ。

●「春の祭典」は圧巻
 これが製作された当時は、カラー映画というものは相当珍しかった。しかし、この色彩の何たる美しさか。
 「トッカータとフーガ」の神秘的な抽象美、「魔法使いの弟子」の夜の映像の奥行き、「田園」「アベマリア」のどこか母性的な感動。とても60年も前の作品だとは思えない映像美である。
 近年は日本のアニメが爆発的ブームであるが、そういうジャパニメーションにはない芸術的感性が「ファンタジア」にはある。宮崎駿、大友克洋でも出せなかった美しさだ。
 特に僕が気に入っているのはストラビンスキーのモダン・バレエ「春の祭典」の節である。生命の誕生から恐竜絶滅までを、科学的な考察をもとにダイナミックにドラマ化しているが、このときの大地と自然の美しさは言葉に表現できない感動を与えてくれる。

●ミッキーマウス、やっぱり最高
 ミッキーマウスはいい。やっぱり最高のマスコット・キャラクターだと思う。
 この映画に出てくるミッキーもまた可愛くていい。とくに先生に怒られての申し訳なさそうな仕草がいい。この映画で、初めてミッキーの目に白目が描かれ、表情が豊かになったそうで、その意味でも「ファンタジア」はディズニーの運命をかけた大勝負だったのだ。

(第5号 「名作一本」掲載)

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