それでもボクはやってない (映画史博物館)
日本にはこれだという法廷ドラマは少ないが、ここについにこれだといえる生粋の法廷ドラマが完成した。誰にでも起こりうる痴漢冤罪を扱っており、実在の人物が主人公のモデルになっている。周防正行監督はこの映画を制作するため、長らく映画活動から退き、徹底的にリサーチを続けた。これを見れば日本の司法がわかる。どのような手続きで起訴され、裁判に進んでいくのかといった過程が、この映画を通じて手に取るように知ることができる。そこには驚愕の実態が浮き彫りにされている。丹念に練り込まれたその脚本の話術は、娯楽映画として見ても完璧。アメリカ映画なんか目じゃないと言わせる近年希に見る衝撃の問題作。また、作品のパンフレットも近年の映画ではかなりよくできた部類で、周防監督が書き下ろした作品にかける意気込みや自身による映画評、裁判用語などが詳しく書かれてあり読み応えがある。作品と合わせて読むとより理解が深まるだろう。主演の加瀬亮はこの年最も目覚ましい活躍をした俳優だった。