Ray/レイ (映画史博物館)
レイが名曲「ホワッド・アイ・セイ」を即興で歌うシーンには鳥肌が立った。これはソウル・ミュージックの生みの親レイ・チャールズの半生を色鮮やかな映像美の中に描いた伝記映画だ。興味深いのは、これが偉人伝でありながらも、素直にいい人ぽく描かれていないことだ。麻薬に溺れ、愛人を持ち、自分の道を突き進むためには、友人だって見捨てる。目は見えないけれども、悪知恵を働かして足掻きながらもしたたかに生きてきたレイの人間臭さには共感を覚える。また2時間半の上映時間の中で描かれるエピソードのひとつひとつがどれもできすぎなほどユニークで、見る者を引きつけてはなさない。賛美歌を編曲して下品な歌にしたり、愛人と言い争っているうちに「ヒット・ザ・ロード・ジャック」を作曲したり、レイの名曲のひとつひとつがどのようにして誕生したのか、その過程の見せ方が練りに練られていてすこぶる愉快。これこそ脚色の妙であろう。レイが周りのあらゆる女性達から言い寄られるところも含めて、見ていて大変嬉しくなる一編である。